研究概要 |
進化的に単量体ヘモグロビンと四量体ヘモグロビンをつなぐ位置にある円口類ヘモグロビン、およびそれのミオグロビンの構造と機能を明らかにするため、北海道産カワヤツメウナギ(Lampetra japonica)の血液からヘモグロビンを、筋肉からミオグロビンをそれぞれ調製して下記の実験結果を得た。 1.ヘモグロビンの成分と構造の解析 (1)溶血液には5つのアイソフォーム(Hb I〜Hb V)が存在し、含有率はそれぞれ78.1%,17.9%,0.2%,2.6%,0.6%であった。 (2)精製したHb Iは149個のアミノ酸残基から成り、その配列はウミヤツメのHb Vのそれと97%の相同性を示した。ヒトのHbのα鎖、β鎖に比べると相同性は低く、N末端が8残基長く、C末端付近に9残基分の欠損がみられた。 (3)もう1つの主要成分であるHb IIのアミノ酸配列はHb Iのそれと同一であった。 2.ミオグロビンの成分と構造の解析 (1)単一成分で、しかも、それのアミノ酸配列はHb Iのそれと同一であった。 3.まとめ 過去2年度の実験結果と併せて、(1)ヤツメウナギのHbの機能は、種々の点において脊椎動物Hbのそれに比べて原始的である(弱い協同作用、Bohr効果、CO_2の効果の存在と有機リン酸塩効果の欠如)。 (2)EPR、FT-IRのデータは、ヤツメウナギHbのヘム鉄配位構造が、近位、遠位残基がHisである脊椎動物Hbのそれに類似していることを示していが、若干の相違もみられる。 (3)Hb IIはHb Iが何らかの様式で(リン酸化?)修飾されて生成した可能性がある。 (4)ヤツメウナギでは、MbはHbと同一蛋白である可能性がある。そうだとすると、この動物、あるいは円口類一般では、Hbのポリペプチド鎖をそのままMbとして"流用"していることになり、進化論的に興味深い。
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