本研究の目的は金融商品の会計情報と株価形成の関連性を調査することである。金融商品に関する新基準が設定され、今後金融商品の多くは時価評価され、財務諸表本体に記載されることになっている。しかしこれまでは金融商品の時価情報については、財務諸表本体には記載されず、補足情報あるいは注記情報として提供されてきた。しかしながらこれは裏を返せば、企業経営にとって重要な経済事象が財務諸表本体には反映されてこなかったということを意味している。たとえば1990年代の銀行において、有価証券の含み益は不良債権処理に重要な影響を与えてきたにもかかわらず、財務諸表本体には記載されてこなかったのである。そこで金融商品の時価情報と株価形成の関連性を分析する前に、まずは財務諸表本体の会計情報が株価形成とどの様な関連性を持つのかを分析することが重要である。そこで本年度は、東証1部上場銀行の財務諸表本体に記載された会計情報と株価形成の関連性を20年分のデータをもとに実証的に分析を行い、非常に興味深い分析結果を得た。それは以下の点である。(1)1980年代には当期純利益や経常利益(フロー情報)の方が自己資本(ストック情報)よりも株価水準を説明する能力を持っていた。(2)しかしながら1990年代以降はその立場が逆転し、自己資本の方が当期純利益や経常利益よりもはるかに強力な説明力を有していた。(3)その転換点が、ちょうど199l年というバブル崩壊の時期と一致するところは非常に興味深い。つまり比較的好況な時期(1980年代)には投資家は収益性に着目しており、バブル崩壊後の不況期には収益性よりも安全性に着目するようになったということがデータによって裏付けられたことになる。次年度はこの結果を踏まえて、金融商品の時価情報が財務諸表本体の会計情報を所与としても追加的な説明力を持っているのかどうか等を実証的に分析する予定である。
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