Tagish Lake炭素質コンドライト隕石は2000年にカナダに落下した新しいタイプの始原隕石である。落下時の観測により軌道が判明し、小惑星帯からきたと推測されている。また、反射スペクトルの測定から、この隕石の母天体はD型小惑星であると考えられ、このタイプの小惑星は小惑星帯外縁部に存在し、対応する隕石タイプが存在しないと考えられていたものである。本研究において、Tagish Lakeの薄片を作成し、その薄片に対し走査型電子顕微鏡を用いて詳細に分析した。それによるとこの隕石は明らかに母天体上での水の関与する変質を受けていた。この変質の程度は高く、隕石中の細粒部分はほとんど層状珪酸塩でできていることがわかった。これらの層状珪酸塩を特定する目的で、放射光X線を用いたX線回折分析を行った。その結果、層状珪酸塩はほとんどがサポナイトという粘土鉱物であることがわかった。ほとんどがサポナイトであるような炭素質隕石は他になく、大部分の隕石中の層状珪酸塩はサーペンテンとサポナイトの混合物である。したがって、Tagish Lakeは母天体上でこれまで見つかった隕石と異なる環境で水質変成を受けていたことが判明した。一方、希ガス同位体比分析から、Tagish Lakeは今までに見つかったどの隕石よりも、ダイヤモンドやSiCといった先太陽系粒子の濃度が高いことがわかった。本年度の研究から、Tagish Lake隕石は太陽系形成時の情報を残しつつも、隕石母天体上で水質変成を受けていることがわかった。
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