中国からの酸性雨原因物質の日本への越境汚染が間題となっている。本研究では、中国、日本における酸性雨実態の歴史と、研究の歴史を追った。これより、日本は国内の環境間題として、酸性雨問題に対処したが、中国においては国内の環境問題というよりも、越境汚染が周辺諸国で問題視されることが、対策の原動力になったと考えられることを明らかにした。この検討をすすめるなかで、本来、政治とはなんのつながりもないはずの純粋な科学研究が、各国の利害を明確に反映していることが明らかとなった。通常、科学研究者は、自然界の真理について研究し、その結果を公表していると考えられているが、酸性雨の越境汚染問題の場合、日本と中国の研究者の研究結果は、移入拡散という物理現象についても、全く異なった研究結果を報告していることが明らかになった。本研究は、各国の基本的な自然認識が、各国の環境意識にどのような影響を与えているかと言う点を原点に、検討を進めたが、その結果、環境科学と国益と言う、新たな切り口を見つけ出すことに成功した。
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