研究課題/領域番号 |
13J08262
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 遼 東北大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | スピン流 / 角運動量 / 流体 |
研究概要 |
本研究の最終到達目標は、「力学的角運動量」(巨視的な回転運動)とスピン流(電子スピン角運動量の流れ)との「相関」効果の基礎物理を築くことである。 本年度は、流体の力学運動によるスピン流生成の観測を実施し、初めてこれに成功した。研究の最終目標への到達に当たり、これこそが本年度成果の最たる意義といえる。加えて交付申請時の研究実施計画であった上記の逆効果についても、相反性の観点から実験系・現象理論を援用することで今後速やかに遂行可能となり、この成果は大変重要である。今年度実施した研究成果は具体的に以下の点に集約される。 1. 流体スピントロニクスにおける基礎方程式の導出 流体の保存則において、Newton粘性を超えた反対称応力による緩和を考慮することで、流体内部の伝導電子のスピン角運動量保存則に渦度(流体の微視領域における力学回転)からくるソース項を導入し、スピン流の基礎方程式を流体系に拡張した。 2. 円筒内流体運動を用いた力学的スピン流生成効果の観測 特性のよく知られた円筒内流れ、常温で液体金属である水銀を用いて、1.で導出した対称性をみたす流体スピンポンプの測定システムを構築し、測定を実施した。スピン流の測定には、ノウハウの確立した逆スピンホール効果(ISHE)の起電力測定法を用いた。結果、流体の駆動に対して鋭敏に応答する起電力信号が測定された。さらにこの信号がISHEの対称性に従っていることも確認された。 3. 流体運動誘起スピン流の定量測定および検証 検出された起電力に対して、流体速度および管の形状パラメータを変化させ定量測定を実施した。結果、全ての起電力信号が1.を用いて理論構築したスケーリング則に従うことが明らかとなった。これは測定された起電力信号が流体運動誘起スピン流に由来するものであるという強い証拠である。更に、信号が磁気流体発雷効果、熱雷効果、帯雷効果などの他の起電力効果に依るものではない点も確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
流体系を用いた、スピン流と巨視的力学運動の相関効果の物理構築という最終目標に対しては、流体運動により誘起されたスピン流の初観測・系統測定に成功し、さらに現象理論の基礎構築ができたため、大きく進展を見せた。 この結果を援用することで、当初の短期目標であった逆効果(スピン流により誘起された力学運動)の観測がより迅速に遂行可能となる。以上の観点から、研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
スピン流-動力「相関」効果の物理解明に当たり、本年度方針の片方向からのアプローチではなく、両方向からアプローチしていく方針に研究計画を微修正する。本年度大きく進展した、流体運動によるスピン流生成実験に関しては、今後流体の流れ(層流・乱流など)や外場を印加した際の変化などを測定していき更に検証を進める。逆効果に関しては、上記測定法を援用したシステムでの測定に加え、マイクロ機械流体工学の技術を用いた微細流路構造の設計を進める。この設計技術のノウハウが所属研究室にはない点に関しては、外部実験グループとの共同で研究を推進することで対応する。また本年度得た流体スピントロニクスの基礎方程式を、保存則の観点などから更に精査することで、より完全な方程式群へとその体系化を行う。これは、理論研究者との連携を密に取り推し進める。
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