研究概要 |
本年度は,配位力の異なるチオラート硫黄およびチオエーテル硫黄が共存する混合型カルコゲン配位子を用いた鉄およびニッケル多核錯体の自己集積的合成手法を確立するとともに,配位形式が容易に変化する(アリールチオラート)モリブデン動的錯体の単離に成功した。 (1)NiCl_2と2倍当量のLiSCH_2CH_2SR (R=Me,Et,^iPr)との反応より、鎖状ポリマー[Ni(SCH_2CH_2SR)_2]_nを、LiSCH_2CH_2SPhを用いた場合には環状6核錯体[Ni(SCH_2CH_2SPh)_2]_6が選択的に得られた。さらに,チオラート/チオエーテル混合配位子NaSCH_2CH_2SR (R=Me,Et,^iPr)と単座チオラート配位子NaS^tBuを共存させてNiCl_2と反応させ、これらの配位子の硫黄原子が上下から交互にニッケルを架橋した環状10核錯体[Ni(SCH_2CH_2SR)(S^tBu)]_<10>を合成した。一方,FeCl_2と1.3倍当量のLiSCH_2CH_2SR (R=Et,^iPr,Ph)との反応では,チオラート架橋鉄六核錯体[Fe_6Cl_4(SCH_2CH_2SR)_8]を与える。また,FeCl_2と2倍当量のLi(SCH_2CH_2SEt)の反応では、類似6核錯体[Fe_6(SCH_2CH_2SR)_<12>]が得られるのに対し、2倍当量のLi(SCH_2CH_2S^iPr)の反応では4配位の鉄中心と5配位の鉄中心がチオラート部位で交互に架橋された鎖状ポリマー[Fe(SCH_2CH_2S^iPr)_2]_nが生成した。これら鉄およびニッケルの一次元ポリマー錯体はこれまでの無機ポリマーと異なり、チオエーテル部位が可逆的に配位/脱離することによってトルエン等の溶媒にも可溶であり、かつ、再結晶によってポリマー構造を再生させることができる。 (2)MoCl_3(thf)_3を3倍当量のLiSC_6H_3-2-Ph-6-(SiMe_3)を反応させることにより、硫黄3原子と一つのPh置換基がモリブデンにπ-配位したMo(SAr)_3が単離された。一方,3倍当量のLiSC_6H_3-2,6-(SiMe_3)_2との反応では金属中心がモリブデン(II)に還元され,Mo(SAr')_2を与えた。得られた錯体は2つのアリールチオラート配位子がそれぞれη^5-およびη^7-配位したこれまでに例のない非対称形サンドイッチ構造をとり,その単離は配位構造が柔軟な新しい硫黄錯体の創出を意味する。錯体Mo(SAr')_2はアセトニトリル中で速やかに反応し、アセトニトリル錯体Mo(SAr')_2(CH_3CN)_3を収率76%で生成した。アリールチオラートは通常の硫黄配位となり,3つのアセトニトリル配位子のうち1つがη^2-配位している。
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