研究概要 |
1.ツンドラ域(東シベリア・ティクシ)に関して,卓越するコケやスゲの生理的な特徴を念頭に置き,予備的な感度実験を行った.特に光合成速度と気孔抵抗の関係を決めるパラメータに重点を置いた.当初,標準として仮定したパラメータを使用すると,観測よりも顕熱が過大で潜熱が過小となる傾向があった.また,アルベードに関するパラメータを観測に適合するように調整した.並行して,従来から研究してきた凍土への液体水の浸透と表層土壌水分に関する陸面過程の応答について整理した.凍土への透水を考慮することにより,表層土壌水分の季節変化をよりよく再現でき,蒸発量の季節変化にも大きな影響があることが明らかになった.ツンドラ域に関しては地表貯留水の効果を変えると顕熱と潜熱の割合を変化させるが,CO_2の交換量にはほとんど影響が出なかった. 2.タイガ域(東シベリア・ヤクーツク)のカラマツ林に関して,観測データの収集し,モデルの入力・検証用にデータを整備した.また,植生2層からなる1次元モデルによって同地域のカラマツ林・草地の比較を行った.観測からカラマツ林が比較的顕熱を多く出し潜熱があまり大きくならないことが指摘されているが,このことは葉の生理特性に特に差異を与えなくても,カラマツ林において蒸散に関わる葉の面積が小さいことで説明できることがわかった.3.チベットにおける1998年夏季の熱・水収支の観測データを収集,整理した. 4.熱帯域(タイ)の常緑樹林について熱・水収支およびCO_2フラックスの観測データをモデル入力・検証用に整備した.また,関連する植生多層モデルを用いてパラメータ決定につながる予備的な再現実験を行った.その結果,葉面積の増減は年間蒸散量と年間遮断蒸発量ともに影響を及ぼした.また,葉の生理特性は蒸散量に影響を及ぼすものの,遮断蒸発量には影響を及ぼさないことがわかった.これらのパラメータが蒸発散に与える感度は,雨季よりも乾燥しやすい乾季に大きく,乾季におけるパラメータチューニングが重要であることがわかった.
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