研究概要 |
本研究は,元素添加による新しい手法に基づき高温超伝導体の積層型ジョセフソン接合の作製技術を確立し,それを回路応用に耐え得るレベルにまで高度化することを目的としている。Y系高温超伝導体YBa_2Cu_3O_<7-x> (YBCO)を用いた接合について,本年度得られた知見を以下に述べる。 1.TEMによる障壁層構造の検討:Pr, Gaの添加による特性向上やばらつき低減に加え,さらにばらつきの改善や特性の向上を目指して,接合特性に大きな影響を及ぼす障壁層付近の構造を調べた。方法としては,改質条件を変えて作製した試料について,断面透過電子顕微鏡(TEM)により微細構造の観察を行った。障壁層を形成するための表面改質をArイオン加速電圧1300Vで行った試料では障壁層付近にY_2O_3相が明瞭に観察された。これに対し,加速電圧700Vで作製した試料ではY_2O_3相ははとんど観察されなかった。加速電圧を下げると接合の臨界電流密度は増加し,臨界電流密度が大きい接合ほど特性ばらつきは小さいことと合わせて考えると,臨界電流密度が大きくなるほど障壁層は薄く均一に形成されていることが示唆された。 2.上部電極材料の検討:上部電極堆積温度が高くなると障壁層にピンホールが形成されやすくなるなどの悪影響があるため,YBCOよりも低い温度でc軸配向するYBa_2Cu_3O_<7-x> (YBCO)を上部電極に用いることを試みた。上部電極堆積温度の低減化については明瞭な結果が得られなかったが,同一条件で作製した接合では,上部電極にYBCOを用いたものより,YbBCOを用いたものの方が特性ばらつきが小さいことが確認され,YbBCOの何らかの有効性があるものと考えられた。
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