研究概要 |
国内林業の不振はスギ・ヒノキ人工林の長伐期化へと移行させ,高齢人工林の伐採が森林生態系に与える影響を研究することは,森林の持つ公益的機能を維持するうえで重要である。本年度は,森林施業と渓流水質との関係を20年余り継続研究してきた,東京農工大学大谷山演習林(現,フィールドミュージアム大谷山)の高齢(95年生)のスギ・ヒノキ人工林小流域において,森林内を比較的速く移動している土壌水および渓流水の溶存元素に着目し,脚部伐採の影響について調査を行った。伐採面積は小流域全体1.8haに対して2割未満の0.33haである。伐採後,伐採地の地温が上がり,特に夏季の上昇が著しかった。表層土壌水のNO_3およびCa^<2+>の濃度が伐採1年目の夏季に3.5倍に上昇,逆に表層土壌水のpHは1年目の夏季に低下した。これらの傾向は,2年目も変化がなかった。また,渓流水でも1,2年とも夏季にNO_3およびCa^<2+>の濃度の上昇がみられた。以上のように,土壌が肥沃な脚部において高齢のスギ林を伐採することによる林地環境の変化(地温の上昇,表土の撹乱など)は,有機態窒素の無機化・硝化を促進し,その溶存元素に対する影響が認められた。伐採後,降水量がほとんど変らないにもかかわらず流出水量が約250mm増加した。同地域における森林の蒸発散量が約200mmであることから,流域脚部伐採の流出水量に及ぼす影響の大きいことがわかる。この流出水量の増加に伴い,溶存元素の流出量も増加するものが多かったが,NaやSiは水量増による濃度希釈で流出量が伐採前後で変わらなかった。伐採で降雨の衝撃を緩和する森林が除去されたことにより,表層土壌から渓流への直接流出水が増え,濃度上昇したNO_3およびCa^<2+>などの流出量が増加し,一方,基底流出水に含まれる母材風化が主な由来の元素(NaやSi)は伐採で流出量に影響を受けなかったと考えられる。
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