研究概要 |
国内林業の不振はスギ・ヒノキ人工林の長伐期化へと移行させ,高齢人工林の伐採が森林生態系に与える影響を把握することは重要である。昨年度に引き続き本年度は,東京農工大学大谷山演習林の高齢(95年生)のスギ・ヒノキ人工林小流域において,脚部伐採(流域の約18%)による土壌水および渓流水の溶存元素動態への影響について継続調査を行った。また,同小流域における,炭素(C)と窒素(N)の動態特性を明らかにするために,無機態N量,純N無機化速度と地表面からのCO_2放出速度などの調査をとりまとめた。 伐採後,表層土壌水のNO_3^-およびCa^<2+>濃度は夏季に上昇,pHは夏季に低下した。これらの傾向には1〜3年目で変化がないものの,徐々に濃度上昇・pH低下の度合いが小さくなってきた。一方,下層の土壌水では伐採1年目より2・3年目の方が,夏季のNO_3^-およびCa^<2+>濃度上昇が大きかった。また,渓流水では1〜3年目とも夏季に同程度のNO_3^-およびCa^<2+>濃度の上昇がみられた。以上のように,土壌が肥沃な脚部伐採による林地環境の変化(地温の上昇,表土の撹乱など)が有機態窒素の無機化・硝化を促進し,その溶存元素へ影響は伐採3年目でも認められた。 無機態N量,純N無機化速度およびCO_2放出速度は脚部スギ林で大きく,尾根部ヒノキ林で小さかった。CO_2放出速度と無機態N量には正の相関性があり,土壌呼吸の盛んな時期に林木に吸収されない無機態Nが存在し,脚部スギ林で多いことがわかった。年間の純N無機化量と水抽出性有機態C消費量には正の相関性があり,C無機化特性の純N無機化量への影響が示唆された。本流域のスギ林はヒノキ林と比べて窒素同化に対する炭酸同化の割合,および無機態N供給に対するC消費割合が小さいと推察された。CとNの循環特性から高齢化した脚部スギ林では,生態系からNが流出しやすいと考えられた。
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