研究概要 |
国内林業はスギ・ヒノキ人工林の長伐期化へと移行しており,高齢人工林の伐採が森林生態系に与える影響を把握することは重要である。昨年度に引き続き本年度は,東京農工大学大谷山演習林の高齢(96年生)のスギ・ヒノキ人工林小流域において,斜面下部伐採(流域の約18%)による土壌水および渓流水の溶存元素動態の継続調査,出水時における流出元素動態の伐採前後の差異を解析した。また,伐採4年後の伐採地・非伐採地における表層土壌の無機態N量・純N無機化速度を調査した。 伐採地の土壌水のNO_<3^->濃度は,伐採後1・2年目では夏季に伐採前より上昇したが,伐採後3・4年目には伐採前と同程度となった。伐採地の土壌水(pF3.8以下)中のNO_<3^->量は,表層土壌で伐採後1・2年目には伐採前より多く,3・4年目には少なくなった。また,伐採後4年目の表層土壌の純N無機化速度は,伐採地で非伐採地より小さかった。これらより,伐採による地温の上昇,表土の撹乱などで促進した表層土壌におけるN無機化は,リターによる有機態Nの供給がないため,次第に低下すると推察された。 一方,下層では伐採後1〜4年を通して,土壌水中のNO_<3^->量が伐採前より多かった。渓流水のNO_<3^->は,伐採後1〜4年とも夏季に濃度が上昇し,年流出量が伐採前よりも増加した。また,渓流水のNO_<3^->濃度は,伐採前は100mm以上の降雨イベントにおける出水時ではじめて上昇がみられたが,伐採後は30mm程度でも上昇した。したがって,流域の斜面下部の伐採においては,伐採後に表層土壌で増大したNO_<3^->が,吸収されずに下層へ移動し,4年後に表層土壌でN無機化が減少しても,下層土壌水のNO_<3^->が渓流水質へ影響を及ぼしていると考えられた。
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