研究概要 |
甲殻類および数種二枚貝組織に多量に存在する遊離D-アラニンの生理機能を解明するため,アラニンラセマーゼの一次構造解析を行った.クルマエビ筋肉および肝膵臓から常法により全RNAを抽出し,精製酵素から得られた部分配列を基に縮合プライマーを設計し,PCRを行った.その結果,最終的に421残基のアミノ酸コード領域を含む1,798bpの塩基配列が決定された.これは細菌類と酵母以外では初めての例であり,これらとは約30%の相同性を示した. また,細菌類の本酵素の活性部位の一部であるチロシン残基を含む部分配列を基に抗原ペプチドを設計し,アラニンラセマーゼを認識する抗体を作成した.本抗体は精製酵素のみならず,ウシエビ肝膵臓,クルマエビ筋肉および肝膵臓の粗酵素液中のラセマーゼも認識した. 生理的条件を変えてアラニンラセマーゼ活性を測定したところ,100から50%海水への塩濃度の低下に伴い,活性は著しく低下し,また脱皮直後には活性が顕著に上昇することが判明した. 一方,コイに5μmol/g BW・dayのD-アラニンを15日間経口投与したのち肝膵臓を摘出し,細菌および哺乳類のD-アミノ酸オキシダーゼの共通配列に基づいて設計したプライマーを用いてcDNAクローニングを行った.その結果,347残基のアミノ酸をコードする1041bpのORFを含む1,294bpのcDNAクローンが得られた.演繹アミノ酸配列はヒトと62%,マウスおよびブタ酵素とは60および61%のアミノ酸同一率を示したが,細菌類の酵素とは29%,真菌類とは26%の同一率に過ぎなかった. このD-アミノ酸オキシダーゼ遺伝子をpET11cベクターに組み込み大腸菌から発現させた.得られた酵素はコイ組織中の酵素と比べてきわめて高い活性を示した.現在D-アスパラギン酸オキシダーゼも遺伝子クローニングを行っている.
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