研究概要 |
テロメラーゼ遺伝子(hTERT)の役割は、染色体末端のテロメアを延長し生殖系細胞や幹細胞の細胞老化を阻止するものと信じられてきた。本研究の目的は、我々が最近発見した事実を元に、テロメラーゼにはテロメア延長機能とは別に「正常細胞の増殖を促進する作用」や「ゲノムの正常性を保つ働き」があり、これが「生殖系細胞や幹細胞の増殖にとって有利な働きを持つ」という新仮説を検証する。到達目標は、hTERTを導入した細胞が共通する遺伝子の発現変化をもたらすかを解析する。ヒト繊維芽細胞TIG-3,NHF,MRC-5および乳腺上皮細胞184および90Pの計5種類の細胞についてプロテオーム解析を用いて、hTERT導入によって発現変化するタンパク質を同定した。繊維芽細胞と上皮細胞ではhTERT導入により変化するタンパク質が異なる可能性があり、両細胞種でそれぞれ変化するものと共通に変化するものに注目する。ウイルスベクターでhTERTを導入直後(テロメア延長前)、導入後約30代(延長途中)、および約100代(延長後)の細胞からタンパク質を回収して、プロテオーム解析した。PDQuestソフトウエアを用いた解析により、テロメアの長短で発現量に2倍以上の差があるタンパク質スポットを186個検出した。98個はテロメアの延長に伴って発現レベルが上昇し、88個は低下した。テロメアの延長に伴って変化したスポットをMALDI-TOF MSまたはLC-MS/MSで解析し19個を同定した。代表例として、発現レベルの増加するGlucose-regulated protein 78kDa (GRP-78), ATP synthetase beta-chain mitochondrial precursor, Actin gamma 1, Heat shock protein 60などがあった。遺伝子発現変化を解析する当初の目的を達成し、今後は細胞機能との関わりを更に進める。
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