研究概要 |
アルツハイマー病やプリオン病など,タンパク質の構造異常による疾患(conformational disease)が問題となっている。いずれの疾患もβアミロイドタンパク質(AβP),プリオンタンパク質が,水溶液中で会合(多量体化;aggregation)して難溶性のβシート構造を形成しやすい性質を持っている。AβPが細胞膜に侵入する過程では,AβPのLys,Argなどの中性pHにおいて正電荷を持つ残基と,脳内の細胞膜中に多く分布している酸性リン脂質であるphosphatidylserine(PS)との間の静電引力の影響が大きいと考えられている。このように,脂質膜とタンパク質(ペプチド)との相互作用は,細胞機能障害と深い関係を持っていると考えられることから、本研究では脂質膜とアミロイドとの相互作用,特に吸着に伴う二次構造の変化について検討を行った。アミロイドモデルとしてpoly-L-lysine(PLL)を選択し、細胞モデルのリポソームにおける酸性リン脂質phosphatidic acid(PA)の含率を増加させると吸着したPLLの二次構造がランダム構造からβ構造へと変化することを見出した。また,温度を変化させたり,リポソームにコレステロールを混合させることによって膜の流動性を制御したところ,膜流動性が低いリポソームの場合にはPLLのβ構造への変化は抑制されることも見出した。以上のように,脂質膜の化学組成および物性,特に流動性を制御することによりPLLの吸着やその二次構造を制御できるという有意な結論を得ることができた。
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