本研究は、現代における身体文化のありかたを「脱身体化」というキーワードで捉え、それが哲学的な自己論とどのような関係にあるかを明らかにすることを目的とする。今年度は最終年度であり、これまでの研究の展開とともに総括的な検討が行われた。 1 これまでの研究の展開としては、和辻倫理学のより綿密な分析を行った。とりわけ「主体的張り」の概念を中心として、身体感覚を通した「間柄」概念が現代の倫理学にとって用いる意義を検討し、その成果としてドイツ語論文「Asiatische Werte und die Ethik des Zwischen」(「アジア的価値と間柄の倫理学」)を執筆し、ドイツにおいて論文集の一環として公刊した。現代文化を特徴づける極端な知性主義ないし「脱身体化」現象は、単に人間の身体能力の低下を招くだけでなく、「意識の構造」にたいしても大きな影響を与える。特に、生きた身体感覚が失われることで他者との関係性を形成する能力の低下が生じる。和辻倫理学は、孤立的な自我の概念ではなく、「間柄」という文脈的な身体的かつ意識的な構造を人間観の出発点することで、脱身体化にたいする倫理学的な批判となる。 2 三年にわたる当研究のまとめを実行。ドイツ現代思想において「脱身体化」という現象について、エリアスやプレスナーによる社会批判やフェミニズムの視点からの身体史において、これまでどのような批判的分析がなされているかを包括的に記述した『自己理解と現代の身体文化-脱身体化社会についての哲学的研究』を執筆した。
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