研究概要 |
高度経済成長期以降,労働市場における異質性の増加は、均質な労働者を前提としてきた慣習によっては処理できないケースを生んできた。日本人はこうした変化に対応して「なぜそう(従来の慣習)でなければならないか」を問うようになってきた。これは,異質性が従来存在しなかった問題を生み,それに対処する必要性が「現場」に密着した慣習の相対的な無力化とより広い適用範囲をもつルールへの要請を高めるためだと考えられる.「解雇のルール」が整備されるなど,この傾向は市場化の進展と共にますます強まることが予想される.市場化は「自由」への信仰によって支えられるが、「自由な個人の営為」はルールによって規制するしかなく,公共性の内包や何が規制されるべき範囲を構成するかが問題となる。 今年度は,新聞記事データベースや雑誌等を用いて質的な資料の探索を行うと共に,数理モデル構築のための方法論的な準備を進めた.個別具体的な諸々の「ルール」が,異質な他者の持ち込む多様な問題との直面を通して,般化していくプロセスをどのように形式的に記述すべきか,方途を模索中である.また,近年の正義論隆盛のきっかけとなったジョン・ロールズ,ロールズの議論を中立性という観点から発展させたブライアン・バリー,さらに,ジョン・ローマーやアマルティア・センの平等論線など,配分と不平等に関する規範理論の検討を行い,衡平理論,地位価理論など公平評価に関する経験的理論との比較を通して,概念装置構築の準備を進めた.
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