研究概要 |
労働市場における異質性の増大につれて,労働者の同質性を前提として成立してきた慣習に依拠したシステムの維持は困難となってきた.システムのメンバーが慣習の由来や正当性を問わないところに,慣習に準拠したシステムの特徴のひとつがあるが,異質な新来者の大幅な増加は慣習の存立根拠を揺るがすこととなる.慣習の正当性や理由を人々が問い始めたとき,慣習はもはや「慣習」ではなくなり,原初的な「ルール」として人々の行為を制御し始める。「〜だから○○すべき」という形で述べられるルールとルールによる制御は,「現状はルール通りか否か」「ルールは果たして合理的か」と言った人々の照査に晒されることとなる.異質な人々が提起する多様な問題に対処しようとする営みを通して,ルール=価値理念は普遍主義化するのではないかと考えられる. 今年度は,前年度にすすめていたJ・ロールズ,B・バリーによる,主として中立性に焦点をあてた正義論,A・センやJ・ローマーに代表される平等主義理論に関して,その規範理論としての論理構造の探索を進めることにより,そこで前提とされている価値が「公平」であることを明らかにした.さらに,前年度に検討したS・アダムズの衡平理論,J・バーガーの地位価理論など,公平評価に関する経験理論と,H・シジウィックやR・M・ヘアの倫理学的な議論に関する検討を加えることによって,「公平」についてフォーマリゼーションを試み,ルールの普遍主義性を形式的にとらえるための概念装置を構築した.
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