脳虚血後の神経細胞死はネクローシスとアポトーシスによりもたらされる。ネクローシスは、ミトコンドリア機能の低下に伴うニネルギー障害が本態である。一方アポトーシスはミトコンドリア膜電位の低下に伴うチトクロームcの遊出により引き起こされる。このように、ミトコンドリアの機能異常は虚血性神経細胞障害の拡大に大きく関与しているが、ミトコンドリアの保護を目的とした治療法は試みられていない。ミトコンドリアは過剰な細胞内カルシウムをup takeする細胞内器官であるため、虚血によりカルシウムが細胞内に流入するとミトコンドリアは急速に膨化する。細胞内へのカルシウムの流入を減少させ、ミトコンドリアの機能障害を軽減することが重要である。本研究ではラット脳梗塞モデルの脳表を電子伝達系観察システム(NADH蛍光)で観察した。本年度はカルシウムに対し拮抗作用を示すと考えられているマグネシウムを用いて、NADH蛍光の変化を観察した。キセノンランプで365nmの紫外線を脳表に照射し、大脳皮質ミトコンドリアのNADH(90%以上のNADHはミトコンドリア内に存在する)を励起した。脳表のNADH蛍光を電子冷却CCDカメラ(解像度30μm×30μm)で15秒毎に連続的に撮影しミトコンドリア電子伝達系の酸化還元状態を観察した。虚血開始後、脱分極領域(虚血の中心)が約20分間で形成された。非治療群では周辺領域にNADH蛍光の増加を伴う再発性の脱分極が観察されたが、マグネシウム投与群では観察されず、ミトコンドリアの酸化還元状態は正常に保たれていた。ミトコンドリアに対する虚血ストレスの軽減が神経細胞に保護的に作用していると考えられた。
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