研究概要 |
正常状態では、ミトコンドリアにより産生されるATPの60%以上は細胞膜上のNa+,K+-ATPaseにより消費され、神経細胞の膜電位の維持に使われている。単離したミトコンドリアを用いた研究によると、低酸素状態ではミトコンドリアのATP合成酵素は逆転し、ミトコンドリア膜電位を維持するためにATPを消費することが報告されている。ATPへの親和性はミトコンドリアATP合成酵素の方が細胞膜Na+,K+-ATPaseより10,000倍高い。従って、虚血により低酸素状態になると、ミトコンドリアは宿主細胞からATPを奪い、エネルギーを急速に枯渇させる可能性がある。そこで本研究では、ミトコンドリアと細胞膜のエネルギー需給の関係を調べ、ミトコンドリアATP合成酵素の阻害薬(オリゴマイシン)による保護効果を検討した。硬膜下腔にミトコンドリア電位感受性色素(JC-1)を10分間、10mmHg以下の圧力で灌流し、大脳皮質の神経細胞に内にloadingした。キセノンランプ(研究室所有)で490nmの青色光を2秒間脳表に照射し、ミトコンドリア内に集積した色素を励起させ、その蛍光強度からミトコンドリア電位を算出した。その結果、オリゴマイシンを投与した群では、脱分極中のミトコンドリア電位は大きく減少したが、細胞膜電位は比較的保たれていた。このことより、ミトコンドリアは虚血中にATP合成酵素を逆転させATPを消費し、細胞膜電位を減弱させることがわかった。
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