研究概要 |
漢字を単位とした意味的ネットワークが,漢字熟語の理解に影響していることが知られている(Tamaoka&Hatsuzuka,1998;玉岡・初塚,1995).そこで,従来の漢字データベース(Tamaoka, Kirsner, Yanase, Miyaoka, & Kawakami,2002)を発展させて,各常用漢字について,どれくらいの熟語を形成するかという「生産性(productivity)」という指標,どれくらい特定の熟語で使用されるかを示す「一貫性(consistency)」という指標,エントロピー(entropy)として知られている「規則性」(あるいは「不規則性」)の指標を算出して,漢字データベース第3版(玉岡・牧岡,2003)を作成した.このデータベースは,www.iie.hiroshima-u.ac.jp/center/tamaoka/down.htmから誰でもダウンロードできるようにした.また,漢字は音・訓読みと意味とが複雑に結合している.そこで,音・訓読みを決める漢字の特徴を明らかにする解析を,漢字データベースを使って行った(Tamaoka, accepted).漢字の書き誤りについては(Hatta, Kawakami & Tamaoka, in press),日本語母語話者が同音異義語の誤りが多いのに対して,日本語学習の初期段階では書字的な誤りが多かった.音韻,書字,意味の漢字の特徴の影響がそれぞれに独立してあることも証明した(Morita & Tamaoka,2002).日本語の漢字は,訓読みにおいて1拍から4拍くらいまでの長さの読みがあるが,それらが漢字1つの書字的なユニットと結合しているかどうかを確かめる実験をおこなって,実際に漢字1つと発音とが強く結合していることを証明している(玉岡,準備中).さらに,中国語と日本語の漢字には微妙な違いがあり,中国語を母語とする日本語学習者の漢字習得に影響していると考えられる.そこで,中国語を母語とする日本語学習者に中国語と日本語での漢字認知実験を行い,日本語の漢字二字熟語を理解する際に中国語からの強い干渉および促進効果があることが分かった.また,逆に中国語で漢字二字熟語を理解する際にも,若干ながら日本語からの意味的な影響を受けることも明らかにした(玉岡・宮岡・松下,2002).さらに,日本語と中国語での接辞となる漢字から自由想起して漢字熟語を書く調査を行った.正確に想起された漢字熟語の数は,日本語能力テストの得点と強い相関を示した,これについては,現在,詳細の記述的分析を行つている.
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