研究概要 |
最初の陸上植物は何かという問題は緑色植物の系統に残された最大の謎であった。そこで,我々は最初の陸上植物とされているコケ植物の葉緑体ゲノム構造を明らかにしてこの謎の解明をめざし,ツノゴケ類ホウライツノゴケの葉緑体ゲノムの全構造を決定した。全構造が知られている葉緑体ゲノムに共通な51のタンパク質遺伝子を選び,それらに含まれる10,854のアミノ酸部位に基づき最尤法で系統樹を構築した結果。高い確率でコケ植物が単系統として陸上に進出し,後にツノゴケ類が分岐したことを示した。 陸上植物の直接の祖先は何かという問題はもう一つの重要な課題である。そこで,我々は陸上植物の直接の祖先と目されているシャジクモの葉緑体ゲノムの構造を明らかにしてこの問題を解決しようとしている。 ホウライツノゴケのRNA構造を解析した結果,他の植物では想像できない多くの部位においてRNAが編集を受けていた。これらのRNA編集は種子植物ではみられないUからCへの変換を436個も含み,葉緑体遺伝子の半数以上は編集なしには機能しないことを示した。さらに,tRNAのアンチコドンやスプライシングに必須部位におけるRNA編集を実証した。これらの編集は機能あるタンパク質を合成するために必須で,ゲノムの変異を相補している。RNA編集が陸上植物の祖先である緑藻にはなく,ほとんどの陸上植物にはあることから,RNA編集は植物が上陸するために必要とした機能であることを暗示している。 RNA編集がおこなわれた配列に相補的な配列(distant cis-recognition element, DCRE)が同じRNAの中に存在した。RNAがDCREと二本鎖構造を取ると編集を受けるヌクレオチドのみがミスペアーとなり,編集酵素はこのミスペアーを修正するというメカニズムを提唱し,これをin vitroで実証しようとしている。
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