本研究は、直接投資が受入国の技術向上にどの程度貢献しているのかを明らかにすることを目的としている。対内直接投資による技術移転を直接計測することは困難であるが、本研究では理論モデルにより技術移転が行われる条件を明示的に導出し、その条件式に基づいて技術移転の効果を入手可能なデータから測定するというアプローチを採用している。 今年度は、実証研究で用いられることが多いコブ=ダグラス型生産関数を仮定し、資本の移動が自由な経済においては、直接投資が行われる条件と直接投資が技術移転を引き起こす条件が一致することを理論的に明らかにした。この理論モデルより、直接投資による経営資源の移転が行われた場合には、直接投資と資本蓄積の間に正の関係が成立するという結論が得られる。70カ国以上のマクロデータを利用して、この理論仮説を検定したところ、全体としては直接投資が技術移転につながっているという結論が得られた。しかし、一方でこの結論は必ずしもすべての国や地域では成立しないことも明らかとなった。特に、社会的なインフラストラクチャーの整備状況が、直接投資の効果の程度に影響を与える可能性が示唆された。社会的なインフラストラクチャーについては、犯罪率、汚職、所有権、官僚機構、政府の介入などに関する指標を用いているが、これらは直接投資の流入量に影響を与えることが知られている。本稿の実証分析の結果は、直接投資の流入量だけでなくその効果についてもインフラストラクチャーが重要な役割を持つことを指摘するもので、今後の各国の開発政策に重要な示唆を与えることが期待できる。 平成15年度は、上記の結果を踏まえ、どのような制度や政策が直接投資の効果に影響を与えるかをさらに詳細なデータを用いて分析する。
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