本研究では、脳の皮質微小回路から導かれる神経回路モデルを記述することにより、認知的な視点から神経回路における感覚統合のしくみを明らかにすることを目指した。今年度はとくに、複雑な環境との相互作用下においてのみ認知的に有意味な現象を観察することが可能であるとの考えから小型自律ロボットを用いた実験を行った。 これまでに、大脳の皮質微小回路を構成する神経細胞モデルとして、神経細胞の樹状突起がもつ複雑な空間構造をシンプルに表現するための単一神経細胞モデルを構成した。さらに、このような空間的な広がりをもった神経細胞モデルに適用可能なシナプス学習則を記述した。学習則は、局所的なカルシウムイオン濃度を想定した局所変数に基づき、神経細胞上のシナプス部位で局所的に機能するBCMタイプの増強/減弱双方向性のシナプス学習則とした。これにより、細胞内ダイナミクスを伴う複数のシナプス可塑変化が記述可能となった。また、生理学的な微小回路構造に基づく神経回路ダイナミクスと、抽象的なモジュール型神経回路モデルにおけるカオスに基づいた情報統合過程との関係についての考察を行った。 今年度はとくに、我々が環境情報を解釈するための枠組みを理解することを目指して小型自律ロボットによる実験を行った。各ロボットは、自身が環境情報を解釈し行動する方法を学習すると同時に、他のロボットが得ているであろう環境情報を自身の行動原理に基づき推定する。このような学習機構を与えたロボット群は相互にコミュニケーションを行いつつ自身の解釈モデルを学習によって更新することで共通の認識基盤を獲得できることがわかった。
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