研究課題
分泌蛋白、膜蛋白は小胞体で成熟し細胞内に分泌輸送されて機能を発現する。虚血、低酸素、毒物や蛋白の一次構造の変異などにより異常蛋白が小胞体に集積すると小胞体ストレス反応が起こり、異常な蛋白は分解(ER associated degradation,、ERAD)処理される。近年、酵母の研究から異常蛋白のなかには一旦小胞体から分泌され、ゴルジ体から小胞体へ逆輸送されなければ分解されないものもあることが報告され、ゴルジ体から小胞体への逆輸送はquality control機構の重要な要素である事が示唆されている。我々は、KDEL受容体が、ゴルジ体から小胞体への逆輸送を担うCOPI小胞輸送の制御機構であると共に、小胞体quality control機構の重要な要素でもあることを示して来た。本研究においては(1>変異KDEL受容体を過剰発現させ、ゴルジ体小胞体間の逆行性輸送を制限した場合、あるいは野生型KDEL受容体を過剰発現させ逆行性輸送を促進した場合に、quality control機構にどのような影響が及ぶかを、それぞれの安定発現培養細胞で検討した。変異KDEL受容体発現細胞では小胞体に異常蛋白の集積が見られ、小胞体ストレスに感受性が高かった。(2)野生型あるいは変異KDEL受容体を過剰発現させたトランスジェニックマウスを解析し、個体レベルで逆行性輸送が促進あるいは制限された場合の病態を検討した。変異KDEL受容体トランスジェニックマウスでは生後10数週で死亡するものが見られた。今後、その死亡原因を詳細に解析する予定である。こうした検討は蛋白の異常な凝集、沈着と神経細胞死を伴う神経変性疾患の病態の解明にもつながると同時に、quality control機構を強化することによる疾患の予防、治療へと発展すると考えている。
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