研究概要 |
水と生体分子が織り成す生命現象として、蛋白質フォールディングは最も基本的なものであり、蛋白質フォールディングの分子機構解明は物理化学と生物科学との接点を担う重要な問題である。この問題を、(1)試験管内での自発的フォールディングの分子機構解明、(2)細胞内での蛋白質フォールディングに関わる分子シャペロンの作用機構解明の二つのテーマに分け、物理化学の立場から原理的に理解することを目的とする。以下の成果を得た。 1.大腸菌の分子シャペロンであるGroELのヌクレオチドによるアロステリック転移は、ATPに対する高い選択性を示し、ATPが明確な転移をもたらすにもかかわらず、ADPやATPγS, AMP-PNPなどのATP類似物ではアロステリック転移はもたらされない。このようなATP選択性の要因を明らかにするため、GroELのフッ化金属ADP複合体によるアロステリックな構造転移をX線溶液散乱とピレン化GroELの蛍光スペクトルを利用して研究した。その結果、上記の高いATP選択性が、GroEL上ATPγリン酸基結合部位の幾何学と配位子数によりもたらされていることが明らかとなった。 2.プロリンペプチド結合異性化反応などの、変性状態における遅い異性化反応がないとき、蛋白質フォールディング速度過程はどのように表されるであろうか。これを明らかとするため、6ヶのプロリンを全て他のアミノ酸に置換した、スタフィロコッカル・ヌクレアーゼを作成し、その巻き戻り速度過程をストップトフロー・ダブル・ジャンプ法を用いて研究した。フォールディングが安定な中間体を持った多重経路機構で起こっており、プロリンがないにもかかわらず複雑な多重指数関数的速度過程となることが明らかになった。この結果は、このような速度過程が蛋白質フォールディングの複雑なエネルギー地形を直接的に反映していることを示唆している。
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