ショウジョウバエにおける生殖細胞の分化に関与するRNAヘリカーゼであるVasaと、RNAおよびATPアナログとの三重複合体のX線結晶構造解析に成功した。この構造をもとに、酵素の変異体解析、MDによるシミュレーションを行い、VasaがRNA二重鎖をほどく分子機構を推定することができた。ハエからヒトにいたる高等真核生物の発生に共通の遺伝子発現制御のメカニズムを解明する上で重要な成果である。 tRNAのアンチコドンの修飾ヌクレオチドのひとつであるイノシンの生成を触媒するtRNAアデノシンデアミナーゼ(TadA)の結晶構造を決定し、tRNAとの結合モデルからその反応機構を推定した。免疫細胞の分化に関与するAID、外敵からの生体防御に関わるAPOBECなど、高等動物に固有のデアミナーゼの結晶化にも着手している。また、アンチコドンループのメチル化をつかさどる酵素TrmDなど、他のtRNA修飾酵素の結晶化・構造解析も進めている。 22番目のアミノ酸として知られるピロリジンをtRNAに付加するピロリジルtRNA合成酵素(PylRS)の活性ドメインの構造を決定し、特殊なアミノ酸であるピロリジンの認識に関する重要な知見を得た。さらに、PylRSが非天然のアミノ酸をtRNAに付加する特性をもっていることを明らかにし、これをもとに非天然アミノ酸をタンパク質に高効率で導入する系を確立した。 同様に非天然アミノ酸であるヨードチロシンや3アジドチロシンを結合した変異体チロシルtRNA合成酵素(TyrRS)の構造解析を行い、人工アミノ酸の取り込みのメカニズムを明らかにした。また、別のTyrRS変異体を用いて、パラベンゾイルフェニルアラニンを細胞内で標的タンパク質に導入する技術を開発した。
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