酸性霧の樹冠への沈着から森林衰退までのプロセスの解明と森林再生プログラムの検討

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15201008
• 研究種目: 基盤研究(A)
• 研究機関: 神奈川大学
• 研究代表者: 井川 学 神奈川大学, 工学部, 教授 (70120962)
• 研究分担者: 桜井 直樹 広島大学, 総合科学部, 教授 (90136010)
• キーワード: 霧 / 雨 / 酸性ガス / 林内雨 / モミ / 森林衰退 / カルシウム / 気孔

研究概要

研究初年度に当たり、霧水採取機を更新し風向風速計を標高の異なる3箇所に設置した。これらの機器も利用し、本年度新たに次の研究成果を得た。1.酸性霧の成分分析と濃度支配要因の解明のために、霧を採取、分析した。その結果、霧水量の減少傾向とこれに伴う霧水成分濃度の増加傾向が確認された。この原因として霧の凝結核となるエーロゾル濃度の減少が考えられる。霧は一回のイベントにおいても消滅生成を繰り返し、濃度が大きく変動する。この要因を検討したところ、大気汚染度、霧底の標高、霧水量の他に、谷風が吹くときに安定した霧が得られ、降雨強度が大きくなったり、風速が速くなると消滅することが明らかになった。2.丹沢大山のモミの林内雨と樹幹流の分析による酸性霧へのモミの応答の把握のために、大山で被害のないスギの林内雨、樹幹流を採取し分析し、樹冠への雨、霧、エーロゾル、ガスの寄与度を、それぞれの分析結果と報告された沈着速度から検討した。その結果、予測値と分析値はよく対応し、ガス成分の沈着の寄与が大きいことが明らかになった。また、標高が高くなると霧水沈着量は降水量を上回り、その原因は霧発生頻度と風速が標高とともに増加するためであった。3.実験室における疑似酸性霧暴露に対するモミ苗木の応答については、モミ苗木に酸性溶液を暴露し枝葉からの溶脱成分を分析し、フィールドの分析結果と比較した。その結果、様々な糖が溶脱することが確認され、その溶脱量はカルシウム溶脱量との相関が高かった。また、衰退要因としてオゾンの影響を考えられるので、ソラマメを使ってOHラジカルの表皮での生成に伴う植物の応答について検討したところ、紫外線強度が強い条件下では、生体内カリウムイオン濃度が減少し、気孔が開かなくなることが確認された。今後さらに、フィールドに近い条件下でOHラジカルの影響について検討し、酸性沈着の影響と併せてまとめていく予定である。

研究成果

• [文献書誌] M.Takeuchi, H.Okochi, M.Igawa: "The deposition of coarse soil particles and the ambient gaseous components dominates dewwater chemistry."J.Geophys.Res.. 108巻. 4319-4323 (2003)
• [文献書誌] H.Takeda, T.Kotake, N.Nakagawa, N.Sakurai D.J.Nevins: "Expression and function of cell wall-bound cationic peroxidase in asparagus somatic embryogenesis."Plant Physiol.. 131巻. 1765-1774 (2003)
• [文献書誌] Y.Tsuchida, N.Sakurai, K.Morinaga, Y.Koshita, T.Asakura: "Effects of water loss and for 'Fuyu' persimmon fruit on mesocarp cell wall composition fruit softening."J.Japanese Soc.Hort.Sci.. 72巻. 517-524 (2003)
• [文献書誌] H.Takeda, T.Kotake, N.Nakagawa, N.Sakurai, D.J.Nevins: "Molecular cloning of two exo-b-glucanases and their in vivo sub strates in the cell walls of lily pollen tubes."Plant Cell Physiol.. (in press).