研究課題
私達は平成18年度も引き続き、丹沢大山においてガス、エアロゾル、雨、霧、林内雨、樹幹流等の採取・分析を行った。林内雨については特に空間分布特性について、これまでと採取地点を変えて詳細に検討したところ、その沈着量は谷風が上昇してくる斜面の南側で多くなる傾向が見られ、風向と地形への依存が確認された。これに対して、標高が890mとあまり高くないことから林内雨量には明瞭な方角の依存性は見られなかった。このことから、関東平野に面するモミの樹冠に多量の汚染物質が沈着していることが示唆された。林内雨降水量の標高依存性は霧の沈着量の標高に伴う増加によるが、その原因は風速と霧発生頻度の標高に伴う増加によると考えられる。これまでの研究から標高が高くなると霧水の林内雨沈着への寄与が高くなると考えられていたが、林内雨と林外雨の降水量差と霧水採取量との比較から、パッシブ霧水採取器で採取された霧水だけでは林内雨の沈着量を説明できないことが明らかになった。このことは、霧による葉の濡れに起因する乾性沈着量の増加や、パッシブ霧水採取器では採取が困難な薄い霧の樹冠による捕捉等が影響していると考えられる。丹沢山塊ではブナやモミの衰退が顕著であることから、それらの苗木への酸性霧曝露実験を継続して行った。ブナについては蛍光顕微鏡を使って膜に結合したカルシウムイオン濃度を調べたところ、酸の曝露により明らかに濃度減少することが示され、これによる耐性の減少等が示唆された。また、モミのエピクチクラワックス層の分子量分布を調べたところ、酸の噴霧によりモミは低分子量成分で溶解が確認され、その変化の小さなスギとの間の違いが顕著であった。このことはモミとスギのフィールドにおける酸性霧との耐性の違いとも良く対応している。以上のことから、ブナやモミの衰退メカニズムの大筋が明らかになったと言える。
すべて 2006
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Bull. Chem. Soc., Jpn. 79
ページ: 1231-1233