研究概要 |
細胞の癌化や悪性化におけるガラクトース糖鎖の役割を調べるモデルを確立するために,β4ガラクトース転移酵素(β4GalT)-I遺伝子欠損マウスに由来胚線維芽細胞の樹立,化学発癌剤によるβ4GalT-I欠損マウス皮膚腫瘍の誘発,β4GalT-I欠損皮膚腫瘍細胞株の樹立を行った。β4GalT-I遺伝子欠損により,β4GalT-Iが関与している2型糖鎖を再構築したモデル系を開発できれば,ガラクトース糖鎖が細胞の癌化,増殖と悪性化に果たす役割を解明することが可能と考えられる。これらの細胞特性の検索を行い幾つかの有用な培養細胞系を確立し,以下に挙げた知見を得たが,癌の増殖と悪性化におけるガラクトース糖鎖の役割を解明するためには,さらに様々な糖鎖構造の再構築を行って詳細に検討することが必要との結論に至った。 1.β4GalT-I欠損マウス由来の胚線維芽細胞を継代して不死化細胞株を樹立したが,前癌段階である無限増殖能獲得においては,β4GalT-Iは関与していなかった。 2.β4GalT-I欠損マウス腫瘍由来細胞株や胚線維芽細胞へのβ4GalT-I遺伝子再導入によっても,無限増殖能獲得や増殖率,細胞接着能への関与は見いだせなかった。 3.β4GalT-I欠損腫瘍細胞株とその遺伝子再導入株における糖鎖抗原解析をレクチン染色により進め,欠損株においても検出可能なβ4位に結合したガラクトース糖鎖があり,他のβ4GalTファミリー遺伝子により相補されている可能性が考えられたが,再導入株では染色強度の増強が見られるバンドが検出できた。 4.β4GalT-I欠損腫瘍細胞株への遺伝子再導入により,フィブロネクチン等の細胞外基質への接着性は変化しないが,β4GalT-Iの導入によりin vitroでの走化性や浸潤性が低下しており,ガラクトース糖鎖が細胞の癌化や悪性化を抑制的に制御していることが示唆された。
|