本年度の研究実績は次のようにまとめられる。 まず、形の知覚と美的判断との関係をみるために、同一の錯視図形を用いて、錯視量を測定するとともに、美的判断を評定尺度により求めた。錯視図形としてOppel-Kundtの分割錯視とその変形図形を用いて、分割線の数を独立変数として錯視量と美的評定値を求めた。その結果、両者を分割線数に対してプロットすると、両者とも山型の曲線になった。すなわち、錯視量は分割線が少ないと少なく、7分割線で最大錯視となり、さらに分割線が増すと錯視量は減少する。これとほぼ同じ経過が美的評定値の変化にも見られた。このことは『錯視が大きい図形は美的であると判断される。』ことを意味する。 次に、色の知覚と美的判断との関係をみるために、多色配色における色の知覚的検出と配色の美的判断が呈示時間を独立変数として実験を行った。その結果、配色を構成する単色の検出は呈示時間によって影響されるが、4色、9色いずれの配色においても美的判断は呈示時間に影響されないことが明らかになった。このことは単色の知覚の成立から配色の美的判断を推定しようとする要素論的仮定は妥当しないことを示唆する。 さらに多様な色と形態をもつパターンを用いて、色については色相と明度、およびその組合せを変化させ、形については色サンプルの配置型を変化させ、これらの変数が美的判断と選好にどのように影響するかを検討する実験を行った。色、配置型に対する美的判断と選好との相関から、『美しいと判断されるものが好まれる。』ことが確認された。色相・明度と配置型に相互作用が認められ、両変数はそれぞれ単独に効果を及ぼすのではなく、それらの組合せが全体として影響することが示された。また、美的判断、選好いずれにおいても、規則的な配置型では同色相・異明度の効果が顕著であり、不規則な配置型では異色相・異明度の効果が顕著になる傾向がみられた。
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