研究概要 |
北海道東部に位置する摩周カルデラは,摩周軽石流の噴出に伴なって約7,000年前に形成された日本でもっとも新しいカルデラの一つである.玄武岩質〜安山岩質溶岩・火砕岩の外輪山に囲まれた径5×7km水深210mのカルデラ湖と,後カルデラ火山のカムイシュ島およびカムイヌプリからなる.カルデラ縁は,急峻な崖となってカルデラ湖を囲む. カルデラ内の測点を含む重力観測により求めたブーゲー重力異常は,中心部が周囲より12mgalほど低い低重力異常を示す.この低重力異常の範囲はカルデラとよく一致する.ただし,この場合の地形補正は,国土地理院発行の50mグリッドのDEMを使用したので,湖水深は考慮されていない.つまり,湖面より下は,湖水も含めてすべて2.67g/cm^3の平均密度で計算される.しかし,摩周湖の最大水深は210mと大きく,しかも鍋底型の湖底なので,水と岩石との質量差分は,地形補正上無視できないほど大きい可能性がある. 湖水の影響を見積もるために,国土地理院発行の1/10,000湖沼図「摩周湖」から等水深線をデジタイザでトレースした後,計算機で10mグリッドにデジタル化して水深のデジタルマップを作成した.このデジタルマップをもとに,各観測点から湖水の引力の影響を角柱近似計算によって差し引いた.その結果,摩周カルデラの低重力異常はほとんど消えてしまう. このことは,摩周カルデラの低重力異常の原因となっている低密度物質の大部分が水であり,火砕流やfall backなどのcaldera fillがほとんど存在しないことを示唆する.換言すれば,深いカルデラ湖を有するカルデラの重力異常は,湖水の補正をしなければ正しい値が得られないことを意味している.
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