研究概要 |
日本において肺癌は最も発生率、死亡率の高いがんの一つであることから、その発がん原因や悪性度を明らかにすることは、がんの予防、早期発見、治療方法の開発にとって重要である。P53遺伝子は塩基変異パターンから発がん原因の推測が可能である(G→T変異はタバコ煙中の発がん物質の直接的影響により、CpG部位のG→A変異は内因により生じる)。またp53とK-ras遺伝子は悪性度との関連が強く指摘されているが結論が出ていない。 切除非小細胞肺癌313例につき、扁平上皮癌(Sq)は発生部位別(肺門、中間、末梢型)に、腺癌は亜型(鋲釘、立方、杯細胞、多角、混合型)に分類し、p53塩基変異パターン、喫煙との関係を検討して、発生原因の相違を明らかにするとともに、腺癌でp53とk-ras変異を組み合わせた場合の悪性度の変化を検討した。 結果:1)Sqに於いて肺門型は、CpGのG→A頻度が他の型よりも高く、重喫煙者が多かったことから、従来の「タバコ煙中発がん物質の直接的影響による発がん」説は否定的で、内因(間接的影響)が主となって発生する症例の方が多いと考えられた。2)腺癌亜型では、p53変異頻度が低くCpGのG→が高く、喫煙率の低い鋲釘、変異頻度が高くG→Tが高く喫煙率が高い立方と多角、変異頻度は前3者の中間で、他の塩基変異が高い混合型に分けられたことから、亜型により発癌原因が異なると考えられた。 また、腺癌の病理病期I期症例で5年生存率を両遺伝子変異の組み合わせで検討した結果、p53(-)/k-ras(-)が90%と最も高く、次いでp53(+)/k-ras(-)が81%,p53(-)/k-ras(+)が75%、p53(+)/k-ras(+)が60%であった。即ち、両遺伝子変異とも予後に影響を与えるが、その影響はk-ras変異の方がより大きく、従って両遺伝子異常が重なった場合が最も予後が悪かった。
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