初年度は先行調査の成果に基づいて、資料の収集に力を注ぐことに重点を置き、次年度はそれに基づく考察を加え研究を深め、内装デザイン、建築デザインあるいは公的研究機関や出版活動など、デザイン研究の傾向や風俗・文化まで分野と視野を拡げることができた。 まず、資料という点で新聞広告が重視された。商業美術などと呼ばれた作品は、本来消費され捨てられてしまい、ものとして現存することが非常に希であるなか、新聞広告だけはマイクロフィルムとして残されており、今回のように年代を追い、系統だった調査ができる。 殆どが無名の図案家であるなかから、今回は今竹七郎の仕事が重点的に明らかにされた(下村朝香、宮島久雄)。今竹の原点が神戸時代にあること、大阪では高島屋の広告図案だけでなく他社の化粧品の新聞広告においても優れた仕事を残したこと、いずれもが西洋の影響を受けながらも独自の和風図案を達成していること、などが明らかになった。 その一方で、京都で制作されたと思われる映画広告や大阪の地下鉄広告では、背景となる観客層や旅客者の量的な限界から優れた図案に達しなかったことも明らかにされた(西村美香、植木啓子)。デザインを取り巻く環境の重要さが明らかになっている。この環境という点で、大広告主である百貨店の商業空間環境の重要さも明らかにされた(徳山由香、畑智子)。 また、大阪府立商品陳列所は図案振興機関として、文芸誌『美術と文芸』・『柳屋』は情報雑誌として、やはり広告図案の環境形成に大きな役割を果たしたことも明らかになっている(菅谷富夫、井上芳子)。
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