研究概要 |
本年度は,都市指導層の主要部分をなし,かつワイン商業の原動力たる貿易商人層(ヒト)とワイン(モノ)という両側面の相互連関を具体的に分析することにより,ボルドー経済におけるワイン商業の位置づけの変化を追うために,(1)貿易商人とワインの関係に関する分析,(2)ワイン商業の経済的・社会的構造に関する分析をおこなう予定であった。しかし,あらかじめ予想していた以上に史料残存状況が悪く,ボルドー商業会議所構成員をすべて割り出す作業が難航した。この作業は,これからとりくもうと考えている1855年のワイン格付制定プロセスをめぐる諸問題が,商業会議所のかかわりなしには理解できないことがわかってきたために,軽視できないものである。商業会議所とワイン格付の関係は,上記(1)の側面にほかならない。したがって,(2)の側面については,商業会議所という一種の地域権力をとおしてみるワイン問題なる視角から対処することとした。3年目の研究においては,この作業を深めて,会議所にとってワイン商業の位置づけがいかなるものだったかという問題に関する仮説を構築していきたいと考えている。 2年目の研究の結果,以下のことが明らかとなった。(a)19世紀中葉の自由貿易運動をてがかりに,当地の貿易商人層をふくむ都市指導層が,従来学説に反して一枚岩ではなく,かなり先鋭な対立をあらわにしていた。(b)当地の商業会議所という制度とその構成員が,地域権力として寡頭性・自立性に特徴づけられる傾向をもっていた。(c)格付制定過程において,会議所内の一部メンバは強力にワイン利害と結びついていた。 以上の研究成果は,口頭発表とともに,裏面記載のとおり論文としても公表した。
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