本年度は、2年間の研究期間の初年度にあたり、資料および情報の収集とその分析を中心に行った。本研究のテーマは、高等教育の中でも「質的保証のネットワーク形成」に絞っているが、研究を進める中で、その動向を分析するためには、欧州高等教育全体の収斂(convergence)の構造をみていくことが避けられないことが明確となった。 具体的には、欧州高等教育をめぐる諸アクターの位置づけや相互関係を把握することであり、こうして枠組みを明確化させる作業を踏まえて初めて、質的保証のネットワーク形成の動向も全体の流れの中で捉えることが可能となる。 そこで、この枠組み把握の作業と成果提出を本年度のひとつの重点作業とした。具体的には、1998年以降2年ごとに定期開催される高等教育サミットを軸とした欧州高等教育圏(EHEA)の形成に対する上記諸アクターの関わり方を整理し、その構造を描くことを試みた。 諸アクターの関わり方は大変複雑である。欧州委員会などのEU内の関連組織や欧州評議会、欧州大学協会(EUA)などの大学団体や学生団体などを含む関係団体など、多様な立場から多様なアプローチがなされていることが把握できた。 しかし、諸アクター相互の力関係は関連文書を見ていてもみえにくい。例えば、サミット関連のある文書では学生団体の貢献について大きく評価する記述がなされているが、実際彼らの発言の影響力はどれほどのものかは、実際に彼らがなした提言とその諸アクターにおける扱われ方を検証しなければ判断することはできないであろう。 この点は来年度の大きな課題のひとつである。「質的保証のネットワーク形成」に焦点を再度絞って、その形成への力学を、本年度所在を把握できた諸アクターの動向分析によって把握し、質的保証ネットワーク形成に必要な要素ないし要件を明確にしたい。
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