研究課題
キナーゼ融合型がん遺伝子を標的にした阻害薬は、融合型がん遺伝子陽性の進行がんに対して劇的な腫瘍縮小効果をもたらすことから大きな注目を集めている。しかし、阻害薬が一旦奏効しても完治につながる症例は稀であり、多くの場合は阻害薬が効かなくなる獲得耐性が生じることで再発を起こす。そこで本研究課題では、(1)培養細胞、(2)担がんマウス腫瘍、(3)再発検体といった試料から細胞株を同時並行で樹立することで、臨床で実際に生じている獲得耐性に繋がる遺伝子変化をいち早く同定するとともにその分子機構を明らかにすることを目指す。また、耐性変異を克服する新たな阻害薬のスクリーニングを行う。平成28年度は、非小細胞肺がんや大腸がんなどで発現しているNeurotrophic receptor tyrosine kinase 1 (NTRK1) 融合型がん遺伝子を標的にした臨床試験中の阻害薬(Cabozantinib、Entrectinib、LOXO-101など)への獲得耐性に関わるNTRK1遺伝子変異部位の探索を行った。これまでに我々は、ALKやROS1のSolvent front部位に変異が入るとALK阻害薬やROS1阻害薬への強い耐性化が生じることを報告してきたが、NTRK1でもSolvent front部位に変異が入るとNTRK1阻害薬に対して非常に強い耐性を示すことを見出した。一方、NTRK1遺伝子変異が認められない場合でも、IGF1レセプターの活性化によってNTRK1阻害薬への耐性化が生じることを明らかにした。実際、IGF1R阻害剤であるOSI906などでIGF1Rを介したバイパス経路を抑制すると、NTRK1阻害薬への耐性が克服可能であることを見出した。以上より、NTRK1阻害薬においても、他の融合型遺伝子陽性がんを標的とした阻害薬と同様に様々な機構で耐性が生じる可能性が明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
これまでに研究代表者らは、(1)培養細胞を用いた耐性細胞株の樹立、(2)担がんマウス腫瘍からの耐性細胞株の樹立、(3)再発症例からの細胞株の樹立といったモデル系を多数作製することで、ALKやROS1融合遺伝子を標的とした治療薬への耐性化に関わる分子機構を世界に先駆けて見いだしてきた。平成28年度は、肺がんや大腸がんでの発現が報告されているNTRK1融合遺伝子を研究材料として、NTRK1阻害薬への耐性化機構の解析を進めた。NTRK1阻害薬は現在、臨床試験が進められていることからも平成28年度ではまずNTRK1阻害薬への耐性化機構の検討を行うこととした。その結果、NTRK1阻害薬への耐性をもたらすこれまでに報告のない新たな変異部位の同定とバイパス経路の発見を行うことに成功したため。
ALK、ROS1、RET融合がん遺伝子を発現した臨床検体由来細胞株を数株は樹立できているが、再発症例由来の細胞株に関しては、その樹立が非常に難しいこともあり、まだ数株しか樹立できていない。我が国における耐性化遺伝子変異の発症頻度を明確にするためにも、再発症例由来の耐性細胞株の樹立を継続していく必要がある。また、本研究課題の遂行過程で見出された、阻害剤に依存して増殖するといったdrug addictionに近いユニークな形質を示す細胞株のシグナル伝達系に関しても解析を進め、融合型がん遺伝子の発がんにおける機能を明らかにしていきたい。
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