キナーゼ融合型がん遺伝子を標的にした阻害薬は、融合がん遺伝子陽性の進行がんに対して劇的な腫瘍縮小効果を示すため、大きな注目と治療効果への期待が集まっている。しかしほとんどの症例では、治療初期には効いていても徐々に効かなくなるという獲得耐性が生じてしまうため、完治につながる症例は稀である。そのため、獲得耐性の分子機構の解明と耐性化したがん細胞に対しても腫瘍縮小効果を示す克服薬の開発が喫緊の課題となっている。 2019年度の本研究では、ALK融合遺伝子陽性の肺がんに対する第一選択薬として現在用いられているAlectinibが効かなくなった耐性症例に、次の治療薬として第3世代ALK阻害薬Lorlatinibを投与した際に生じる耐性変異の解析を進めた。その結果、耐性変異と治療薬の立体的な結合様式から、治療薬との相互作用に関わる標的分子のアミノ酸変異と耐性度に相関があることをin silicoシミュレーションにより明らかにした。この成果は、治療薬への耐性化に関わる変異を事前予測するといった耐性変異を生じ難い治療薬の開発につながるものと期待される成果を得た。 また、ROS1融合遺伝子陽性の肺がん細胞株に対して、現在はCrizotinibやEntrectinibなどが治療薬として用いられているが、Crizotinibに耐性となったROS1融合遺伝子陽性がんの耐性克服薬として、以前に見出したc-MET/RET/VEGFR阻害薬Cabozantinib (XL184)に加え、ROS1/NTRK阻害剤として開発中の薬剤であるDS-6051bを新たに見出すことに成功した。特に、Crizotinibに高度耐性を示すG2032R変異を持つROS1融合遺伝子陽性のヒト肺がん細胞株に対してもDS-6051bは腫瘍縮小効果を示しており、今後の克服薬としての臨床開発が期待される成果を得た。
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