研究課題/領域番号 |
15H02716
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
下嶋 篤 同志社大学, 文化情報学部, 教授 (40303341)
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研究分担者 |
杉尾 武志 同志社大学, 文化情報学部, 准教授 (60335205)
片桐 恭弘 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (60374097)
竹村 亮 日本大学, 商学部, 助教 (70583665)
佐藤 有理 東京大学, 総合文化研究科・広域科学専攻・広域システム科学系, 特別研究員 (90750480)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 図的推論 / 思考 / 推論 / 問題解決 / 読解 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、論理学的・計算論的・心理学的アプローチを統合して、図を介した人間の情報処理を総合的に理解することである。本年度は、5年計画の最初の年として、それぞれのアプローチの基礎固めを行い、おおむね、以下の(1)~(6)の成果を得た。 (1)論理学的アプローチにおいて、図において抽象情報が表示される論理的メカニズムと、そこから帰結する図の認知特性を体系的に解明した。(2)さらに、論理学的アプローチでは、図表現の意味分析の新しい方法論として、非常に単純なシグナル系である「一変数表示系」に着目し、通常の図表現が採用する意味体系を一変数表示系もしくはその集積として捉えるという方法を提案した。(3)また、計算論的アプローチでは、経済学で用いられる需要・供給グラフという身近な図表現に焦点を絞り、その推論特性を解明した。(4)心理学的アプローチでは、人間が表を読解するプロセスを解明するための基礎研究として、個別のセルに提示される具体情報と行や列レベルで表示される抽象情報を読み取るときの脳活動をfMRIデータに基づいて分析した。(5)これとは別に、心理学的アプローチでは、オイラー図を用いた三段論法推論のプロセスをfMRIデータに基づいて分析した。(6)さらに、心理学的アプローチとして、「すべてのX」「あるX」という二種の量化表現だけを扱う伝統的な三段論法を拡張して、「ほとんどのX」などの量化表現を扱う推論についても、研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が、現時点でおおむね順調に進展していると判断する理由には、大きく二つある。 第1に、論理学的・計算論的・心理学的アプローチにおいて、それぞれの方法論の長所を生かした研究成果が着々と得られ、著書、雑誌論文、学会発表において内外の学術界に発信され評価を得ていることがある。「研究業績」の(1)で述べた論理学的アプローチの成果は、英文の著作としてまとめられ、米国スタンフォード大学付属のCSLI出版から出版されている。(2)で述べた論理学的アプローチの成果、(3)で述べた計算論的アプローチの成果、(6)で述べた心理学的アプローチの成果は、図表現研究のもっとも権威のある国際学会である International Conference on the Theory and Application of Diagrams での発表が受理され、Springer社のLNAIシリーズの論文集に収録されることが決まっている。また、(4)で述べた心理学的アプローチの成果は日本心理学会第79回大会において発表された。さらに、(5)で述べた心理学的アプローチの成果は、2015 IEEE Symposium on Visual Languages and Human-Centric Computing において発表され、最優秀論文賞を受賞している。 第2に、これらのアプローチがばらばらに追求されているわけではなく、年2回の定期会合において、長い時間をかけてそれぞれの進捗状況について徹底的に討論し合い、本研究でめざしている三つのアプローチに基づく総合的研究が実を上げていることが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度における基礎固めを経て、平成28年度はいっそう積極的に研究を推し進め、国内外に成果を発信する予定である。とくに、平成29年の日本認知科学会大会において、本プロジェクトの成果に基づくワークショップを開催できるように、論理学的・計算論的・心理学的アプローチにおける個別の研究を推し進めるとともに、それらの統合から得られる知見を蓄積する。 また、平成30年には、International Conference on the Theory and Application of Diagrams におけるワークショップを企画する。これにより、図を介した抽象情報の処理に関して、それまでの3年間あまりで得られた知見を発信し、国外の研究者との交流の中で、科学的により信頼でき、社会的により有用なものに高め、最終的な成果に仕上げるためのヒントを得る。 なお、平成27年度に研究分担者であった佐藤有理氏が、所属先における異動のために平成28年度は本研究プロジェクトの分担者でなくなるが、佐藤氏は引き続き研究協力者として本プロジェクトに深く関わる意欲をお持ちであり、研究分担者の杉尾武志氏とともに、引き続き、心理学的アプローチを推進していただく予定である。
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