研究実績の概要 |
近年、国内外で数多くのゲノムコホート研究が展開されつつある。ゲノムコホート研究では、従来型コホート研究に加えてゲノム解析を行い、遺伝型と環境要因の相互作用を解析し、疾患の原因を明らかにすることが試みられるが、産出された変異データを解釈する基盤がまだ不十分なため、ゲノムデータが十分に活用されているとは言いがたい。そこで本研究では、ヒトのゲノム情報とタンパク質の構造情報を統合し、レアバリアントの解釈を行う基盤を構築する。 初年度は特にゲノム情報とタンパク質立体構造情報をつなぐ手法の開発を行った。具体的には、ゲノムとトランスクリプトームの対応付けに応じて、ゲノム上の位置とトランスクリプトの位置の対応付けを行い、平行して連携研究者の太田・白井らが開発を行ったモデリングパイプラインを利用して、RefSeq配列と構造情報の対応付けを行う基盤を構築した。NHLBIが公開している6500人の変異データを構造にマップし変異の登場頻度との関係の解析を行った。その結果、タンパク質相互作用部位に予想に反して、立体構造上は重篤に見えるが頻度が高くヒトには影響の無いと思われる興味深い変異を見つけることができた。関連する実験情報を集めることで、この変異が確かに相互作用を弱めることが確認出来ると同時に、相互作用が弱まっても、生体内でのタンパク質の存在量を考えると、複合体の形成自体は可能であることが明らかになった。これは、構造情報だけでは意味づけ困難な変異であるが、全体としては非常にまれなケースであることも確認することができた(Nishi et al, Protein Sci)。また、低分子結合部位周辺の変異も同様に解析を行い、概ね構造情報から予想される変異頻度であることが確認でき、我々のアプローチの妥当性が見えてきた(Yamada et al, BPPB, 2016, in press)。
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