研究課題/領域番号 |
15H03622
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 周 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (50183520)
|
研究分担者 |
藤家 雪朗 立命館大学, 理工学部, 教授 (00238536)
足立 匡義 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (30281158)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | シュレディンガー方程式 / 散乱理論 / 半古典解析 / 超局所解析 |
研究実績の概要 |
研究代表者の中村は,長距離型摂動を持つ拡張されたシュレディンガー作用素に対する散乱行列がフーリエ積分作用素であること,またその応用として散乱行列のスペクトルが決定できるモデルについての研究を継続し,論文をほぼ完成させた.また,只野之英氏との共同研究で,離散シュレディンガー作用素が連続極限でシュレディンガー作用素にノルム・レゾルベント収束すること,したがってスペクトルが収束することを証明した.
研究分担者の藤家は,2018年度は,主に次の2つの課題を研究した.(1) A.Martinez, 渡部との共同研究で,エネルギー交差を持つ一次元シュレディンガー方程式系の量子共鳴の半古典極限における漸近分布について,エネルギー交差レベルより高いレベルにおいて,超局所解析の手法を用いて量子共鳴の漸近分布を明らかにした.(2) S.Kamvissisとの共同研究で,非線形シュレディンガー方程式のLax対として現れるZakharov-Shabat作用素の反射係数の漸近挙動,固有値の漸近分布を,完全WKB法を用いて明らかにした.
研究分担者の足立は,神戸大学の清瀬周氏との共同研究で,(1) 定電場と定磁場の両方が印加されている空間内の多体量子力学系に対するAvron-Herbst型の公式を導出し,それを応用して,1個の粒子のみ荷電しており,他の粒子は非荷電であるような系に対する漸近完全性を証明した; (2)時間周期的ポテンシャルをもつ2体Schrodinger作用素に付随するFloquet Hamiltonianに対する新たなconjugate operatorを提唱しMourre評価を得た.その研究の続きで,時間周期的ポテンシャルをもつ3体Schrodinger作用素に付随するFloquet Hamiltonianに対するconjugate operatorを構成し,Mourre評価を得た.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要にあるように,研究目的に合致した多数の研究成果が得られた.具体的には,例えば,中村の研究成果は,散乱理論の中核的な研究対象の一つである散乱行列の数学的構造に対する理解を深める結果である.藤家の研究成果は,古典力学的に複雑な構造を持つ力学系を量子化した系の半古典極限におけるスペクトル構造に新たな光をあてるものである.足立の研究成果は,外部電場,磁場等の下での電子の散乱理論の解析という,長い歴史を持つ困難な研究領域に確実な発展をもたらした. 数学の研究に関しては、研究成果が出版されるには時間がかかるが,多くの研 究成果はすでにプレプリント等の形で公表されている.また,研究目的の一つである若手研究者に対する研究助成も着実に行われており,上記の研究成果の多くは,若手研究者との共同研究成果であることも,それを反映している.
|
今後の研究の推進方策 |
前項までで述べたように,研究計画の主目的である量子力学のスペクトル理論,散乱理論を超局所解析的な手法,アイデアを利用して深める,という課題は着実に実行されている.したがって,当初の研究計画にもとづき,引き続き,研究代表者,研究分担者の自発的な研究活動によって,当該研究計画の目標の実現を目指す.具体的には,国際交流,国際会議での研究発表のための外国旅費の支出,国内における研究交流のための国内旅費の支出に予算の大部分を引き続き充てる.必要に応じて,それに付随する諸費用,謝金,研究のための計算機環境の整備,などに予算を支出する.
|