研究課題/領域番号 |
15H03742
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渡邊 剛 北海道大学, 理学研究院, 講師 (80396283)
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研究分担者 |
山崎 敦子 北海道大学, 理学研究院, 特任助教 (40723820)
佐々木 圭一 金沢学院大学, 基礎教育機構, 准教授 (50340021)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 古環境 / OIS3 / 化石サンゴ記録 / 人類変革期 |
研究実績の概要 |
昨年度、立ち上げた喜界島サンゴ礁科学研究センターにおいて掘削した現生のサンゴ骨格コアおよび採取した化石試料の一次処理を行い、北海道大学にて酸素・炭素同位体比、微量元素濃度分析を行った。酸素・炭素同位体比の測定は北海道大学に設置されている炭酸塩前処理装置(carbonate device)を接続した安定同位体比質量分析計で測定した。ストロンチウム/カルシウム比は北海道大学に設置されているICP発光分光分析装置(ICP-OES)で測定を行った。現生サンゴ骨格の酸素同位体比およびストロンチウム/カルシウム比から喜界島における水温と塩分の季節変化をとらえ、学術誌に報告した。また、酸素同位体比分析と同時に得られるサンゴ骨格の炭素同位体比指標を用いて過去の日射量の変動を復元した。昨年度に引き続き、喜界島において水温・水質モニタリングを週一回継続している。次年度は水温・水質モニタリングの結果と詳細にキャリブレーションを行い、サンゴ骨格指標の精度を高める。 5万6千年前のハマサンゴ骨格に加えて、同層序から化石シャコガイおよびMIS3にあたる年代のサンゴ礁から発見したコマルキクメイシの分析も同時に進めている。国立台湾大学においてマルチコレクターICP質量分析計を用いたウラン系列年代測定を行った結果、採取した化石コマルキクメイシの年代は6万3千年前、7万6千年前、4万9千年前となり、MIS3における幅広い年代の化石サンゴを得ることができた。また、 現生および化石コマルキクメイシの酸素・炭素同位体比分析を行った。また化石シャコガイの酸素同位体比による水温の復元を行った。次年度はさらに解析を進めMIS3当時の環境と気候を詳細に明らかにし、短周期気候イベント(渇水・洪水、アジアモンスーン、エルニーニョ、モンスーン)が人類の生活に与えた影響を考察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は現生および化石サンゴ骨格の酸素・炭素同位体比および微量元素濃度分析を当初の計画通りに行い、過去の水温を高精度で復元した。また海水と同位体平衡で殻を形成するシャコガイの化石を発見し、酸素同位体比分析を進めた。サンゴのみではなく同じ時代のサンゴ礁に生息する生物源炭酸塩の解析により、復元水温の信頼性を高めることが可能になった。また、サンゴおよびシャコガイ記録を組み合わせることにより、MIS3当時の海水温およびモンスーンの強度や台風などの気候を日~季節スケールで詳細に明らかにすることが今後可能となり、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
定期海洋観測にて得られた観測記録(水温、塩分、日射量、栄養塩)の一次データと現生サンゴ骨格の酸素同位体比、ストロンチウム/カルシウム比、炭素同位体比の分析結果を詳細に比較し、それぞれの指標の高精度キャリブレーションを行う。現生サンゴで行ったキャリブレーションを元に化石サンゴ骨格の分析で得られた結果から、MIS3における気候の短周期要素(季節―数年―数十年規模の変動)を詳細に復元する。現在のサンゴ記録および人類学的知見(人類の派生、進化、移動)と総合的な比較を行い、その気候短周期成分の周期性とタイミングが人類の生活および人類の転換に与え得たインパクトを考察する。喜界島サンゴ礁科学研究センターにおいてシンポジウムを開催し、本研究で得られた結果を古気候学と人類学の文理融合の学際的な観点から相互的に議論して成果をまとめ報告する。また、サンゴ礁科学研究センターに展示室を設置し、本研究で得られた試料、研究成果を一般や子供向けにもわかりやすく展示を行い、喜界町民および喜界島を訪れる人々に研究成果を還元するアウトリーチ活動を展開する。本研究で得られた成果は引き続き国内および国際学会で発表を行うと共に国際誌に投稿する。
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