研究課題
本研究の目的は、高輝度のフェムト秒赤外レーザーを光源に用いて、いまだ困難とされるフロー型の時間分解赤外分光装置を開発し、酵素反応の観測に応用することである。装置の第一の応用として、一酸化窒素還元酵素(NOR)の酵素反応を追跡し、国内外で論争中の反応機構に決着をつける。本年度は、光で反応を誘起する「フロー・フラッシュシステム」を開発し、ケージドNOを用いて、NOR反応の時間分解観測を試みた。このシステムは、励起光照射と同期して未反応試料を20ナノリットルずつマイクロ流路フローセル(光路長20 μm)に送液可能であり、収量の少ない膜タンパク質にも応用可能である。エキシマーレーザー(308 nm, 8 ns)からのUVパルスを励起光に用いて、ケージドNOからのNO放出を誘起した。NO還元反応は、活性部位である鉄二核中心(ヘム鉄と非ヘム鉄)に2分子のNOが配位することから始まる。NOの配位構造は反応機構を考える上で鍵となるが、NO結合型は短寿命であり実験的解析が困難なため、長年未解明であった。まず、励起光照射後500マイクロ秒の赤外スペクトルを測定した結果、反応生成物であるN2Oのバンドが観測され、ケージドNOを用いた反応系の有用性が確認された。次に、励起光照射後10マイクロ秒の赤外スペクトルを測定した結果、ヘム鉄に結合したNOのバンドと非ヘム鉄に結合したNOのバンドの2本が観測された。これはtrans型のNO配位構造(trans型反応機構)を支持しており、論争中の反応機構に決着をつける結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
フロー・フラッシュシステムを完成させ、NORの反応機構解明にまで至ったため
NOとN2Oの赤外バンドの時間変化を追跡する。また、変異体を用いて反応速度を制御しながら、NN結合形成時に現れる不安定反応過渡種(hyponitrite)の観測を試みる。一方、溶液混合システムを開発し、フロー型時間分解赤外分光装置の汎用化を目指す。
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Biophysical Journal
巻: 110 Supp1 ページ: 548a
doi:10.1016/j.bpj.2015.11.2933