研究課題
本研究の目的は、高輝度のフェムト秒赤外レーザーを光源に用いて、いまだ困難とされるフロー型の時間分解赤外分光装置を開発し、酵素反応の観測に応用することである。装置の第一の応用として、一酸化窒素還元酵素(NOR)の酵素反応を追跡し、反応機構を解明する。1年目にフローフラッシュ測定装置を開発し、ケージドNOを反応トリガーに用いた反応系で、脱窒菌cNORのNO結合型中間体の観測に成功している。そこで2年目となる本年度は、NO結合型中間体の生成・消滅の時間変化を追跡するとともに、NO結合型中間体の次に現れるNO還元過程の中間体の観測を試みた。理論的には、2分子のNO間でN-N結合が形成されたhyponitrite(N2O22-)中間体の生成が示唆されている。しかし、我々の反応系ではNO結合型中間体の生成後は速やかにN2Oが生成し、NO還元過程を詳細に解析することができなかった。そこでプロトン輸送経路上のアミノ酸残基を置換した変異体(E57A)を調製し、反応速度を制御することで、NO還元反応の途中に現れる不安定な活性種の捕捉を目指した。E57AのNO還元活性はWTと比べて10%程度であった。今後はこの変異体の反応速度論解析を行う計画である。また本年度はフローフラッシュ測定装置を、脱窒カビNOR(P450nor)にも応用した。cNORと同様にケージドNOを反応トリガーに用いて、NO結合型中間体およびそれに続く中間体I(NO結合型がNADHによって2電子還元された中間体)の観測に成功している。
2: おおむね順調に進展している
cNORのhyponitrite中間体はまだ観測されていないものの、変異体の調製まではできており、来年度に繋げられたため。またcNOR以外にもP450norへと応用範囲が拡がり、研究が発展的に進んだため。
cNORのE57A変異体を用いてNO還元過程の中間体(hyponitrite中間体など)の観測を目指す。またP450norについては、重水中でも酵素反応を観測し、NO伸縮振動の波数から中間体Iのプロトン化状態を明らかにする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
Nature
巻: 543 ページ: 131-135.
10.1038/nature21400
Nat. Commun.
巻: 7 ページ: 12314 (9 pages)
10.1038/ncomms12314
Science
巻: 354 ページ: 1552-1557
10.1126/science.aah3497 .
J. Phys. Chem. B
巻: 120 ページ: 7836-7843.
10.1021/acs.jpcb.6b05634