研究課題
神経細胞において生理的なシナプス刺激によって誘導される神経特異的前初期遺伝子Arcはシナプス可塑性やシナプス恒常性に直接関わる因子であるが、その作用機構の詳細は不明である。本研究の目的はArcによるシナプス調節機構と大脳認知機能の調節メカニズムを明らかにすることである。平成28年度においては、昨年度までに開発したグルタミン酸受容体の表面発現動態の可視化法を用いて、野生型およびArc欠損神経細胞におけるグルタミン酸受容体動態を計測し、ArcによるAMPA型受容体のサブユニット特異的な制御という新しい知見を得た。また、このAMPA型受容体の動態制御とシナプス可塑性との関係を調べたところ、サブユニット特異性に加え、可塑性の極性や刺激後の経過時間など複雑な制御パラメーターが存在することが示唆された。現在、統計解析を含めて詳細な検討を行っている。さらに、このようなグルタミン酸受容体制御と認知機能の関連を調べるため、Arc欠損マウスにおける空間記憶課題の反復学習能力テストを行った。その結果、Arc欠損マウスは学習そのものの障害は認められないものの、反復フェーズにおける課題ルールの切り替えに特異的な障害があることが明らかになった。近年、ヒトのゲノム研究からArc遺伝子変異と統合失調症の関連などが示唆されている。本研究で明らかにされるArcによるシナプス機能および認知機能の制御メカニズムから精神疾患の病態の理解につながることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
現在のところ実験計画の各項目について順調に結果が得られており、一部の結果に関しては学会発表なども行っている。今後、計画どおりに進まない項目が出てきた場合は、他の項目にエフォートを集中して研究を進める。
来年度以降においては、これまでに得られたArcによるグルタミン酸受容体の表面発現や局在の変化に関するデータの定量解析を進め、統計的な評価を行う。さらに、様々な可塑性誘導刺激を加え、Arcによるグルタミン酸受容体動態制御の全容をつかむ。個体動物を用いた認知機能解析についてはArc欠損マウスをもちいた反復学習課題による評価を進める。また、新規トランスジェニックマウスを用いた活性化神経細胞ネットワーク標識システムを用いて、海馬における記憶関連ネットワークの時間的変化の解析を推進する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 図書 (2件)
Nature Communications
巻: 7 ページ: 13471
DOI: 10.1038/ncomms13471
生体の科学
巻: 67 ページ: 4-8