研究実績の概要 |
神経細胞において生理的なシナプス刺激によって誘導される神経特異的前初期遺伝子Arcはシナプス可塑性やシナプス恒常性に直接関わる因子であるが、その作用機構の詳細は不明である。本研究の目的はArcによるシナプス調節機構と大脳認知機能の調節メカニズムを明らかにすることである。平成29年度では、これまで進めてきたいくつかの国際共同研究について成果をまとめ論文として発表した。まず、視覚野におけるArcの機能を調べるため、Arc発現を亢進させたトラスジェニック(Tg)マウスを作成し、視覚経験依存的な視覚野応答の変化を解析した。その結果、経験依存的な変化を引き起こす期間はArc Tgマウスにおいて通常のマウスよりも延長されていることが明らかになり、Arcが視覚野可塑性の時間枠を決定している可能性が示唆された(Jenks et al., 2017)。また、Arcタンパク質は細胞体や樹状突起部以外にも細胞核にも存在することが知られていたが、この細胞体と核での存在比は睡眠サイクルと相関して変化していることが明らかになり、この現象とグルタミン酸受容体の制御との関わりが示唆された(Honjoh et al., 2017)。また、Arc Tgマウスを用いた解析により、Arc mRNAの樹状突起局在と翻訳制御にはmRNAのスプライシング機構が関わっていることが明らかになった(Steward et al., 2017)。以上の結果よりArcによるシナプスおよび神経回路の調節機構の新たな側面が示され、今後の新しい研究展望が広がった。
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