本研究は、光合成を営む独立栄養植物から光合成機能を失い共生菌から炭素を収奪する菌従属栄養植物への進化をもたらしたキー・イノベーションを解明することを目的とする。 本年度はラン科サイハイランと菌の共生培養系を用いて、植物の形態形成におよぼす菌根菌の影響を検証した。 サイハイラン(ラン科)は、ラン科植物が普遍的に共生する担子菌門ツラスネラ科などのリゾクトニア類とともに、限られた菌従属栄養植物の共生者として知られる担子菌門ナヨタケ科が検出されている。本研究ではサイハイランの根および根茎から分離したツラスネラ科ならびにナヨタケ科の菌とサイハイランの共生体を構築し、植物の形態形成に及ぼす2種の菌根菌の影響を評価した。上述した菌をあらかじめ繁殖させたオガクズ培地にサイハイランの無菌培養苗を置床し、明区(12時間照明)と暗区を設け、25℃恒温で192日培養した。対照区として無菌のオガクズ培地にサイハイラン苗を置床した。菌根共生した苗の形態に着目すると、ナヨタケ科共生体は、明区・暗区ともにすべて腋芽からサンゴ状に分枝する根茎を形成した。一方、ツラスネラ科共生体は根茎を形成せず、腋芽から普通葉を展開した。生重量増加に関して、明区ではナヨタケ科共生体とツラスネラ科共生体の間で有意差は見られなかったが、菌従属栄養性のみが発現しうる暗区では、ナヨタケ科共生体が有意に増加した。以上の結果、菌根菌の種類が植物の器官の形態形成に違いをもたらすことを、培養系を用いてはじめて明確に示すことができた。さらに、2種の菌は同一の植物で菌根形成するにも関わらず、栄養供給に関わる機能が異なることが示された。
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