平成29年度は実際に生きた胚間で染色体操作を行うための条件検討を行った。通常、胚発生において染色体はM期に出現し各染色体はチューブリンと動原体で接続し紡錘体を形成している。胚の単一染色体を操作するためには、この構造を破壊し細胞質内で各染色体を分散させる必要がある。そこで、紡錘体構造を破壊するためコルセミド(ノコダゾール)および早期染色体凝集を起こすオカダ酸を用いて胚内で染色体を分散させることを試みた。具体的には、常法に従って核移植胚を作製し、その後染色体を可視化するためにH2B-mRFP1のmRNAをマイクロインジェクションにより注入した。mRNAを注入した胚をノコダゾールおよびオカダ酸を含む胚培養培地に移して、翌日まで培養した。蛍光顕微鏡下で観察したところ、mRFPの赤色蛍光でラベルされた染色体が細胞質中に分散している様子が観察された。次に、マイクロマニピュレーターでこれらの分散した染色体を実際に操作可能か調べた。染色体を分散させた胚を細胞骨格を破壊するサイトカラシンBで処理し、ピエゾドライブを装着したガラスピペットで蛍光ラベルを指標として、染色体を操作した。その結果、卵細胞質内に分散した染色体を、少量の卵細胞質とともにガラスピペットを用いて分離することに成功した。さらにこれらの分離した染色体を、マウス受精卵に注入することも可能であった。これらの結果は、染色体の蛍光ラベルおよびコルセミド処理を組み合わせることにより、生きた胚において単一染色体のマイクロマニピュレーション操作が可能であることを示している。
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