研究課題
個体発生や癌の浸潤において、多くの細胞は個別的ではなく集団を形成して移動することが知られており、細胞の集団的移動と呼ばれている。申請者は過去の研究で、神経芽細胞の集団的移動に必須であるアクチン結合タンパク質Girdinを同定し、同分子が癌細胞にも高発現して浸潤を促進する分子であることを明らかにしてきた。また最近、Girdinが細胞間接着においてカドヘリン特異的な取り込みを制御する分子であることも報告した。以上の研究結果により、神経芽細胞・癌細胞に限らず集団的に移動する細胞群は、その細胞間接着の強度を適度に調節することによってお互いを足場にして移動するのではないか、という仮説を得るに至った。本研究では本仮説とこれまでの予備的実験データをもとに、カドヘリン特異的エンドサイトーシスによる集団的細胞移動の制御機構と癌進展における意義の解明を目的としている。本年度は下記の事項を明らかにした。(1) カドヘリン特異的エンドサイトーシスを制御する機序の一つとしてalphaおよびbeta-cateninに着目し、Girdinとcateninが生化学的に直接結合することを示した。GirdinのC末端ドメイン(アクチン結合ドメイン)がcateninの結合責任部位であることを示し、またcateninのGirdin結合ドメインも同定した。(2) Girdinの発現抑制がN-カドヘリンの動態に与える影響を検証した。神経芽腫細胞株でN-カドヘリン-GFPの安定発現細胞株を作成し、GirdinををRNA干渉法によって抑制したが、明らかな影響は観察できなかった。(3) 一方で、Girdinの変異体を発現するノックインマウスの神経芽細胞を観察するとN-カドヘリンの局在の異常および発現低下がみられた。同変異体マウスでは神経芽細胞の集団移動が障害されており、その機序の一つと推定された。
2: おおむね順調に進展している
Girdinとcateninの結合に関する生化学的解析はおおむね順調に進展している。一方、本研究ではカドヘリン特異的エンドサイトーシスの制御機能を欠失した変異体Girdinの作成も目標としているが、Girdinのcatenin結合責任領域が予想より広いため、これに難渋している。
生化学的解析は当初の予定に従って遂行する予定である。Girdinのcatenin結合領域の絞り込みに成功した場合には、その領域の欠失変異体を作成し、細胞に導入後、細胞の運動能に与える影響を検証する。加えて当初の予定どおり、細胞を免疫不全マウスに移植し、細胞の浸潤能に与える影響を検証する。
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