研究課題
制御性T細胞(Tregと略)は抑制性免疫制御の中枢を担っていることから、Tregの量的、質的コントロールは免疫寛容誘導や抗腫瘍免疫活性増強を可能とする。そこで本研究では、Treg分化誘導の理解およびそれに基づいた悪性腫瘍等に対する免疫療法の開発をめざす。Treg発生期における特異的エピゲノム成立を解明するため、ゲノム再構成の必要性についてまず検討をおこなった。クロマチンルーピングなどゲノム再構成に必要な因子として知られるゲノムオーガナイザーSatb1をCD4細胞特異的に欠損させたところ、Tregの分化、発生が阻害され重篤な自己免疫疾患を発症した。さらに、Satb1欠損マウスではTreg特異的super enhancerの成立が阻害され、それに続くTreg特異的epigeneticパターンの成立、Treg特異的遺伝子発現、共に影響を受けていることが明らかになった。このことはヒトにおいてもゲノム高次構造の変化に由来する自己免疫疾患発症がありうることを示す。次に、DNAメチル化パターンがTreg機能に与える影響を解明するため、ヒトTreg細胞の全ゲノムDNAメチル化解析を行ったところ、ヒトTreg細胞においてもTreg特異的DNA脱メチル化領域が存在することが明らかになった。さらにこの特異的脱メチル化領域のメチル化情報と疾患関連SNPsとの関連を解析したところ、Treg特異的DNA脱メチル化領域は、自己免疫疾患に関連したSNPsが集積することがわかった。また癌組織中に浸潤したTreg細胞の発生と機能を解析することにより、抗腫瘍免疫活性を増強しうる標的分子の同定に成功した。本因子に対する抗体を用いた免疫療法では、著名な抗がん作用が認められたことから、本治療法に関する許申請をおこなった。
2: おおむね順調に進展している
1. Treg発生期におけるゲノム高次構造変化の役割解明 Treg発生期におけるゲノム再構成の必要性を明らかにするため、ゲノムオーガナイザーSatb1をCD4細胞特異的に欠損させたところ、Tregの分化、発生が阻害され重篤な自己免疫疾患を発症した。さらに、Satb1欠損マウスではTreg特異的super enhancerの成立が阻害され、それに続くTreg特異的ヒストン修飾パターンの成立、Treg特異的遺伝子発現、共に阻害されTreg分化が前駆細胞のステージで停止していた。これらの結果は、発生期におけるゲノム構造変化がTreg細胞分化に必須の役割を果たしていることを示す。2. Treg分化における特異的エピゲノム成立機構の解析 Treg特異的エピゲノム成立に関わる因子として、メチル化DNA結合因子MBD3およびDNA脱メチル化プルセスに関わるTETを取り上げ、Treg細胞分化における役割を解析した。MBD3をT細胞において欠損させた場合、Treg前駆細胞の発生が著名に抑制された。さらにMBD3欠損マウスは自己免疫疾患を発症したことから、MBD3はTreg発生において何らかのエピジェネテックプライミングに働いていると推定された。また、TET family遺伝子を欠損させたTreg細胞ではTreg細胞特異的DNA脱メチル化が抑制されることを見いだした。3. Treg細胞を標的としたがん治療法の確立 Treg発生分化に関する本知見に基づき、癌組織中に浸潤したTreg細胞との差異を解析し、癌浸潤Treg細胞に特異的な分子の探索をおこなった。マウスを用いた基礎データとヒト臨床検体での解析結果とを合わせ、極めて癌浸潤Treg細胞に特異性の高い分子マーカーを同定した。この分子に対する抗体は、担癌マウスモデルにおいて、極めて高い抗腫瘍活性を示した。
1. Treg発生期におけるゲノム高次構造変化の役割解明 Treg発生の最初期に認められる変化を検出するため、Treg発生時におけるエピジェネテック変化を発生段階ごとに解析する。さらに最初期変化が起こる領域を特定し、この領域をCrisper Cas9の系を用いて欠損させ、Treg発生における重要性について検証をおこなう。また、この領域の欠損に由来するエピジェネテック変化をモニターし、エピジェネテックプライミングとTreg細胞分化との因果関係を解明する。2. Treg分化における積極的DNA脱メチル化機構の解析 MBD3欠損マウスにおけるエピジェネテック変化の解析を推し進め、本因子によるTreg特異的エピジェネテックパターン成立に与える影響、および発生における役割について検討をおこなう。さらにTet2/3 2重欠損マウスにおける遺伝子発現パターン、ヒストン修飾パターンを解析し、Tet2/3欠損によるTreg特異的epigenomeへの影響、およびTreg特異的DNA脱メチル化への影響を解析する。特にTregの安定性、維持機構における影響を解析し、Treg特異的DNA脱メチル化の喪失がもたらす影響について明らかにする。3. Treg細胞を標的としたがん治療法の確立 新たに同定した因子を標的とした癌免疫療法を実現させるため、ヒトにおいて用いうる抗体の取得と様々な癌腫に対する有効性の評価を進めている。さらに本治療法の副作用として自己免疫疾患発症が懸念されるため、抗腫瘍活性の確認とともに病理評価を進めている。また抗腫瘍活性を引き起こす作用機序の詳細についても解析を推し進める。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 産業財産権 (1件)
Nat Immunol.
巻: 18(2) ページ: 173-183
10.1038/ni.3646
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 113(17) ページ: E2393-2402
10.1073/pnas.1604351113.
Nat Med.
巻: 22(6) ページ: 679-684
10.1038/nm.4086