本研究においては,自立した生活を送っている80歳ならびに90歳の高齢者を対象に,3年間の前向き研究を行い,口腔機能が栄養摂取を介して,筋肉量,筋力,身体能力の低下(サルコペニア)の発症ならびに進行に及ぼす影響について,検証することを目的としている.平成27年度は,3年間の前向き研究として83歳と93歳の高齢者約370名について,口腔内診査,口腔機能検査,栄養調査,サルコペニアの評価などを行った.口腔機能検査としては,検査用咬合力感圧シートを用いた咬合力,咀嚼能率検査用グミゼリーを用いた咀嚼能率検査を行った.栄養調査としては,簡易型自記式食事歴法質問票を用いて,1000kcalあたりの食品群や栄養素の摂取重量を算出した.サルコペニアの評価としては,体組成計による筋肉量の測定,握力や歩行の速さを測定した.また,医学検査として,サルコペニアを関連のある疾患の既往について問診し,身体測定やBMIを記録した.現在データ入力が完了し,今回追跡調査を行えなかった対象者への参加呼びかけの準備とデータ分析を行っている. 本研究においては,「口腔機能が低下すると,栄養摂取が不十分となり,サルコペニアの発症または進行に影響する」ことを仮説とする.もしこの仮説が明らかとなれば,口腔機能とサルコペニアとの間に栄養摂取が媒介することと,その因果関係が初めて示されることになる.このことで,高齢期まで歯や口腔機能を維持する意義,さらに高齢化社会における歯科の重要性がより明確となる.
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